サムライブルーの原材料BACK NUMBER
マリノスにベルギーから出戻って。
天野純「死ぬまで絶対に忘れない」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYokohama F-Marinos
posted2020/06/17 08:00
決意も新たにマリノスに戻ってきた天野。「プレーで見せていくしかない。活躍していくしかない」と語る。
「死ぬまで絶対に忘れない」
「引き続き欧州でプレーすることしか考えていませんでした。代理人には欧州とコンタクトを取ってもらっていましたけど、コロナの影響もあって見通しが立たない。
この自分の難しい状況を理解してくれたうえで迎え入れてくれたF・マリノスには感謝という言葉以外ありません。
ただ、心にあるのは悔しいという思い。死ぬまで絶対に忘れないと思います、この悔しさは」
死ぬまで絶対に忘れない。
その言葉が、何度も筆者の頭のなかで反芻される。重い決断で飛び出し、苦悩し、重い決断で再び戻ってくる。ようやく見えた光に手を伸ばそうとしても、もはや届かない。どれほど無念だったかは硬い顔つきが語っている。
彼は切り替えようとしている。それこそ必死に。
「サッカーを楽しむことが重要なんじゃないか」
「ベルギーに行くまでは周りを見て前と後ろに対する意識が6対4くらいだったんですけど、今ではもう8対2くらい。常に前を見るようになったし、自分でも前に運んでいけるし、前への選択肢が凄く増えました。
ただ(何を得たのか)言うよりも、プレーで見せていくしかない。活躍していくしかない。それと……」
引き締めた表情をふと緩めていた。
「今あらためて感じているのはサッカーを楽しむことが重要なんじゃないか、と。対戦相手も含めて一番楽しそうにやっている選手でいたい。そうすることで、いいプレーって出てくると思いますから」
苦渋、苦悩、苦闘。
苦の続きに、きっと楽がある。
苦が大きかった分、楽も大きいはず。
サッカーでの悔しさはサッカーでしか晴らせない。挑戦の先にあったはずの“対価”を、天野純は迎え入れてくれたF・マリノスで追い求めていく――。