フランス・フットボール通信BACK NUMBER
ブラジル代表監督、独占インタビュー。
チッチ「ブラジルは常に革新されねば」
text by
パトリック・ウルビニPatrick Urbini
photograph byYann Le Duc/L'Equipe
posted2020/06/15 11:40
炎のように情熱的な性格というチッチ代表監督。身振り手振りで選手を鼓舞し、素晴らしいチームを作り上げた。
試合の前に、膨大な準備期間を要する仕事。
――仕事を続けるうえで一番難しいことは何ですか?
「監督の役割は大きく変わった。40年前はまだ代表の主力はほとんどが国内リーグに所属していた。今日はほぼ全員がヨーロッパだ。つまり仕事の前段階としてプランニングや観察、分析、試合の視察(チッチと8人のスタッフは、2月6日から3月1日までに26試合――うち18試合が英・西・仏・伊の4カ国でおこなわれた――を視察した)に膨大な時間を要する。
クラブと緊密に連携をとる。選手が普段どんなトレーニングをしてそれぞれのポストでどう進化を遂げているかをクラブから聞き、それを自分たちが収集した独自の情報と照らし合わせて裏づける。そこから回復に必要な時間を正確に割り出して、集合前の個人プログラムを作り出す。その後で合宿に入り試合の準備をしながら個々のパフォーマンスも最適化していく。クラブの協力なしにはこのプロセスは実行できない。
パリ・サンジェルマンは最多の代表選手を抱えているが(マルキーニョスとネイマール、チアゴ・シウバ。ただし現在はチアゴ・シウバのチーム離脱が確定)、関係はとても良好だ。さまざまな情報を継続的に交換している」
「選手は自分を尊重する人間に対しては常に敬意を払う」
――それぞれの試合前に視察をして、今述べたプロセスを踏んでいるということですか?
「長旅は何も解決しないし、それらの情報を的確に処理するのはそう簡単ではない。ましてや選手がチャンピオンズリーグを戦っている間は、プレッシャーと緊張感がときに極限まで高まる。そこで突然まったく異なる状況に身を置き、異なる目標に向かうのは難しい。
だからこそ私は選手の本質をできるかぎり理解しようと努めている。よく見ることがサッカーでは重要だが、同時に強く感じ取らなければ駄目だ」
――まず人間的な側面に重きを置いて仕事をしているということですか?
「人間関係は極めて重要だ。効果的に共同作業を進めていくための第一段階は、選手との信頼関係を構築することだ。勝つにせよ負けるにせよ、時間がたつにつれて関係も深まっていく。
ベースとなるひとつの原理がある。選手は自分を尊重する人間に対しては常に敬意を払う。だから私も彼らの技術能力を把握する前に、まずパーソナリティに信頼を寄せるところから始める。スタメンの11人を決めるのは、しばしば状況に左右される。重要なのはスタメンであれサブであれコンペティターの精神を持っているかどうかであり、チームのレベルを上げたいという絶対的な忠誠心を持っているかどうかだ」
――それがチーム内の競争をいい方向へと導いていく最も確実なやり方なのでしょうか?
「ひとつ例をあげよう。直近の2試合の前に、私はマルキーニョスとチアゴ・シウバのレギュラーCBのふたりとミリタンを呼んで、何をしたいのかを伝えた。マルキとチアゴにはこう言った。
『ミリタンには代表でプレーする時間が必要だ。選手たちのパフォーマンスを最大限に向上させるためにもそれは必要なことだ。だから2試合ともフルで彼を起用し、君らは1試合ずつにする』と。
ふたりはもちろん喜んではいなかったが、監督の私が正直に話しているのはよく理解した。少なくとも言行は一致していると。私たちの間に隠し事は何もない」