フランス・フットボール通信BACK NUMBER
ブラジル代表監督、独占インタビュー。
チッチ「ブラジルは常に革新されねば」
text by
パトリック・ウルビニPatrick Urbini
photograph byYann Le Duc/L'Equipe
posted2020/06/15 11:40
炎のように情熱的な性格というチッチ代表監督。身振り手振りで選手を鼓舞し、素晴らしいチームを作り上げた。
「選手に不可欠な資質で、最も重要なのは勇気」
――ブラジル代表を描いたドキュメンタリー“Tudo ou Nada:Selecao Brasileira(『オール・オア・ナッシング:ブラジル代表』の意)”の冒頭で、あなたがミーティングで選手たちにこう語るシーンがありました。「選手に不可欠な資質のなかで、最も重要なのは勇気だ」と。あなたはよく感情や説得力、情熱、平静さなどの言葉を多用しますが、それらがあなた自身のトレードマークといえるのでしょうか?
「常にそうであるわけではない。例えばロッカールームでは、まったく異なる態度をとることもある。突然、アドレナリンが湧き出して瞳が輝きだし、試合にのめり込んでいく……。ただそうでないときは、できるだけ落ち着いて平静さを保つようにしている。私が落ち着きや自信、集中力を失い、それがチームに伝わってしまったらいいことは何もないからね」
――ボディランゲージにも重きを置いてはいませんか?
「身体で伝えられることは、口から発せられる言葉と同じぐらい重要だ。態度で示すのは基本的なコミュニケーションで、選手はそれに対してとても敏感で理解も速い」
「2014年の悪夢はいまだに消え去っていない」
――監督に就任した2016年夏は、2年前のWCのトラウマ(地元開催の大会準決勝でドイツに1対7と歴史的な大敗を喫した)がまだ根深く残っていましたが、どこから仕事を始めましたか?
「2014年の悪夢はいまだに消え去っていないし、痛みはブラジルの歴史に永遠に残る。すべてのブラジル人にとって、今もまだ思い出したり語るのは苦痛でしかない。私も最初のころは、選手たちが自信を喪失し不安に苛まれているのを強く感じた。クラブでのパフォーマンスは素晴らしいのに、次の日に代表に来てプレーするとまったく別人になってしまう。だから自信を回復することから仕事を始めた。
当時のセレソンは、2018年WC南米予選を6試合戦って6位に低迷していた。このままでは予選を突破できないと選手たちに訴えかけた。新たな戦術の方向性を示して、彼らが最高のコンディションを整え最も適したポストでプレーできるように配慮した。
私が自分の役割をまっとうし、そのうえでクラブや練習と同じプレーを試合でも選手たちにさせることができたら、期待に十分に応えられるし落ち着いた気持ちでいられる。結局のところ私は、仕事をしていくうえである種の軽快さをもたらしたかった。ブラジル人選手がプレッシャーを受けながらも能力を発揮するには喜びが必要だ。それはDNAに組み込まれたブラジル人の特質でもある」