猛牛のささやきBACK NUMBER
22歳でホームラン王から10年……。
T-岡田が取り戻した“遊び心”。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/04/06 12:00
2010年には33本で本塁打王を獲得したT-岡田。オフにはウィンターリーグへ参加するなど、今季にかける思いは強い。
「仕事になっちゃうとね……」
プエルトリコでの経験は、T-岡田に原点を思い起こさせた。
「僕らもちっちゃい頃は、野球が楽しくて始めたんですけど、仕事になっちゃうとね……。ここまで来ると、形にこだわってしまいがちだし、結果ばかり考えてしまう。それでいい結果が出るなら考えればいいけど、なかなかそうはいかない時ってあると思うんで、そういう時ほど、野球を楽しめるような観点を持つというか、遊び心を持つことによって別の視点から見られたり、広い視野を持つことで上達につながることもあると思います。
僕もバッティングの調子が悪くなると、形を気にしてしまうタイプなので、今は練習で、『今日は思いっきり飛ばす』とか『今日はとにかくライナーを打つ』とか、遊び心を持ってやったりしています。そういうのが逆にバットコントロールにつながったり、ふとしたことで、『あ、こうやればこんなに簡単に打球が飛んでいくんや』と発見できる時もある。形にとらわれすぎないように、という意識で今やっています」
ここ最近は楽しめていなかったのでは? と聞くと、「正直、それはあったと思います」と答えた。
「やっぱり仕事だから、しんどいものでは絶対あると思うんですけど、向こうで会った彼らのように、楽しんで、数字も上がったら、絶対そっちの方がいい。もちろんそればっかりじゃなく、しっかり突き詰めて、考えてやることも大事ですけど、そのバランスですね」
「そらもうTがダントツちゃいますか」
T-岡田は、真面目にやりすぎる典型的な選手だ。
履正社高校時代から長打力は群を抜いていた。高校通算55本塁打を放ち、「浪速のゴジラ」の異名をとった。
昨夏、履正社高は初の全国制覇を果たし、パワーを誇る4番の井上広大(阪神)が3本の本塁打を放って貢献したが、大会中、履正社高の岡田龍生監督は、「履正社の歴代の強打者と比べて井上はパワー的にどうか?」と質問をされた時、こう答えた。
「いや、そらもうTがダントツちゃいますか。体のエンジンで言えば」
その「T」こと岡田貴弘は、2005年の高校生ドラフト1巡目でオリックスに入団。登録名を「T-岡田」に変えて臨んだ5年目の2010年に33本塁打を放ち、22歳で本塁打王を獲得した。
しかしその後は、怪我による離脱が増えたり、思うように結果が出ないと考え込んでしまい、不調が長引くという悪循環に陥るようになった。
2017年には初めて全143試合に出場し、本塁打も2010年以来の30本に乗せて復活を印象付けたが、翌'18年の春季キャンプ中に脇腹を痛めて離脱。その年は97試合の出場で、打率.225、13本塁打に終わった。そして昨年は二軍で過ごす時間が長く、一軍出場はわずか20試合、本塁打は1本だった。