Jをめぐる冒険BACK NUMBER
柿谷曜一朗と濃密な15分45秒の対話。
あの移籍騒動とセレッソ愛、30歳。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/02/21 18:00
30歳の節目を迎えた柿谷曜一朗。セレッソ大阪の象徴的存在として、唯一無二の創造性をピッチで表現してほしい。
移籍へと気持ちが傾きかけた理由。
セレッソ愛の強さゆえに悩み、葛藤した柿谷は、自分自身も輝きたいという、サッカー選手として当然の願望に苛まれた結果、禁断の移籍へと気持ちを傾けていく。
「いろんな人に悩みを打ち明けて、話を聞いたんです。そうしたら、挑戦したほうがいいって言う人が多かった。びっくりすることに、セレッソで今まで一緒にやってきた人の中にも、移籍したほうがいい、という人がいた。もう、ギリギリの状態やったんです。引退したらもっといろいろ話せますけど(苦笑)。
最終的には、本当にギリギリのところで思いとどまったというか。自分がやりたいことをやり通せんといなくなるのは違うし、背負ってきたもの、大事にしてきたものを放り出して、誰かのせいにして逃げ出してはいけないと思ったので」
予想を超えるプレーに人は興奮する。
セレッソは昨季、スペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督を招聘し、ポジショナルプレーをベースにしたスタイルに取り組んでいる。新しいサッカーを学べているとはいえ、23試合3ゴールという成績は、満足できる数字からはほど遠い。
「この2、3年はほんまに1年間戦い抜いたという記憶がなくて。自分がそうなんだから、サポーターにもなんのインパクトも残せてないやろうなって。やっぱり1年を通して、特にホームゲームで点を取って、サポーターを喜ばせたい。ポジションを重視するサッカーの中でも違いを出していきたい。そのチャレンジをやめて、型にはまったプレーをするだけなら、サッカーを続ける意味はないと思うくらいなんで。
人と同じことをやっても、興奮や感動を与えられないじゃないですか。予想をはるかに超えるプレーに、人は興奮するわけで。そのチャレンジはやめたくないというか、その想いだけでサッカーをやっているところもありますから」
そう聞いて思い出したのは、柿谷が天才の名をほしいままにしていた10代の頃のプレーである。
後方から来たボールをトラップで浮かせ、ワンタッチで相手の頭上を通して落ち際を叩き、ファーサイドに突き刺した'06年U-17アジア選手権決勝のスーパーシュート。あるいは、センターサークルを越えて早くも右足を振り抜き、まんまとゴールネットを揺らした'07年U-17ワールドカップのフランス戦での超絶ロングシュート……。
いずれも、見る者の予想をはるかに超えるフィニッシュだった。