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《アスリートの社会貢献のはじめ方》「思いがあるなら、まずは一歩踏み出してほしい」インクルーシブな水泳イベントを主催するパラスイマー久保大樹の場合

posted2026/06/05 11:00

 
《アスリートの社会貢献のはじめ方》「思いがあるなら、まずは一歩踏み出してほしい」インクルーシブな水泳イベントを主催するパラスイマー久保大樹の場合<Number Web> photograph by GEKIJOU

昨年開催された「GEKIJOU3」での競技の様子。泳ぐだけでなく様々な種目で競われる

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渕貴之

渕貴之Takayuki Fuchi

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GEKIJOU

 トップアスリートが競技の枠を超えて連携し、スポーツの力で山積する社会課題に取り組み、「スポーツ×社会課題」という新たな方程式のもと、社会課題解決のリーダーとして活躍する世界を実現する──。

 日本財団が主催する「HEROs」は、アスリートたちの社会貢献活動を推進し、社会課題解決の輪を広げるためのプロジェクトだ。2017年に発足し、これまでに66競技350人がHEROsアスリートとして活動を広げている。

 パラ水泳の久保大樹もそのうちのひとり。

 久保は日本体育大学在学中に水泳部主将を務め、北京オリンピック選考会出場などの実績を持つスイマーだった。

 だが卒業後、体育教師として勤務していた24歳のときに、急激な筋力低下や麻痺を引き起こす神経疾患の難病ギラン・バレー症候群を発症。両手足に麻痺が残ることになるが、リハビリ生活のなかで出会ったパラ競泳の選手の姿に触発され、パラスイマーとして再起を果たした。

 その後、2018年のアジアパラ競技大会では100mバタフライと400mリレーで金メダルを獲得。しかし、トップスイマーとして臨んだ2021年東京パラリンピックでは、直前のクラス分けで自身の競技クラスが変更となり、まさかの代表内定取り消しという憂き目に遭った。

嫌いになったまま水泳を離れたくない

 久保は当時の心境をこう振り返る。

「がんばってきた人生を否定せざるを得ない状況になって、一時は水泳を嫌いになるところまで落ち込みました。でも、嫌いになったまま水泳から離れるのは避けたい。水泳が純粋に楽しかった頃に立ち返り、障がいの有無にかかわらずみんなが集まって水泳を楽しめるイベント『ハイタッチ』をはじめたんです」

 2022年に初めて開催された水泳イベント「ハイタッチ」はその後「EXCITE」の名称を経て、現在は「GEKIJOU」として久保の地元である大阪で開催されている。「誰もが楽しめるめっちゃおもろい大会」として参加者の年齢、性別、障がいの有無いずれも問わず、水泳の各種目に加え、工夫を凝らしたオリジナル種目も交えてチーム対抗の形で競う。大会の趣旨は以下のとおりだ。

①参加したすべての人が水泳を楽しめる場であること
②結果の良し悪しにかかわらず明るく楽しくハイタッチができる場であること
③結果にとらわれることなく、泳ぐ喜びを感じられる場であること
④すべての人の水泳人生に物語があることを意識できる場であること

 ここに久保の思いが詰まっている。

「ぼく自身はパラリンピアンになれませんでした。この苦しい経験から出た結論が、比べることにあまり意味がないということだったんです。結果ではなく、自分が好きなことをがんばってどれだけ成長できたか。プロセスこそが評価される世の中になってほしいと思うんです」

 久保はEXCITEがGEKIJOUに進化する際、日本財団HEROsに参加を申請し、審査を経て100万円の支援金を得た。

「もちろん、金銭面の支援を得たのは大きいですが、かっこよく言えば、お金はなんとかなると考えていたんです。最悪、自分で出せばいい。でもHEROsに参加することで得たものは、お金よりももっと大きい。ぼくの目標は『共生』という言葉すら不要な開かれた社会の実現なんですが、申請の時点ではやりたいことをきちんと言語化できていなかった。プレゼンに臨むにあたり、日本財団の担当者の方に相談に乗ってもらい、多大なサポートをいただいた。そのなかで当初は勢いだけだった思いを明確に言語化でき、実現のための方法論を学べたのが最大の収穫でした」

GEKIJOUの先に見据えるもの

 GEKIJOUは毎年1度の開催で今年11月には4回目を迎える。回を重ねるごとにイベントとしては成長しているが、久保はすでに次のフェーズに思いを馳せている。

「ありがたいことに、年1回の開催では足りないほど参加者が増え続けています。ただ問題は、誰もが満足できるクオリティを提供できているかということ。GEKIJOUは6チームに分かれて競い、各チームにリーダーを置いています。今後はそのリーダーを務められる人材を障がいのあるなしに関係なく育てたい。すでにぼくひとりですべてを取り仕切るのは難しい段階になっているので、障がいを持つ選手にも「自分も社会を変えらえる一員なんだ」という意識を持って積極的に参加してほしい。その先で、大阪だけでなく各地で開催されるようなかたちを目指したい。それが実現すれば、ぼくが目指す社会への到達スピードが早まると考えています。さらに言えば、プール以外での開催も検討しています。重度の障がいを持つ方は水に入るのが難しいこともあるので、たとえばボッチャなどを種目にして、GEKIJOUモデルを拡大していきたい。そのあたりが目下の課題です」

 理想とする社会の実現に向け、久保の情熱は留まるところを知らない。最後に同じような志を持つアスリートへのメッセージを求めると、こんな答えが返ってきた。

「とにかく思いがあるなら、まずは一歩踏み出してほしい。ぼくは活動を始めてからも失敗ばかりでしたが、HEROsに参加することでさまざまな助けや学びを得ました。思いに大小はありません。踏み出すことでしか次に進む実感は得られないんです」

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