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宮市亮、ザンクトパウリで完全復活。
「ケガする前より速くなっている」
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2020/02/08 09:00
爆発的なスピードで日本サッカーのニュースターとなった宮市亮。雌伏の時を経て、ついにその能力を開花させつつある。
ワンタッチのクロスでアシスト。
でも、この日の宮市はなかなかドリブル突破が成功しませんでした。
特に前半は対面の若きクロアチア人選手、ボルナ・ソサに止められることが多く、彼がボールを失った瞬間にスタンドから「あぁ」というため息が漏れます。
2mの体躯を誇るヘンク・フェールマンのヘディングパスを受けて得た相手GKとの1対1を逸した際には、サポーターが膝から崩れ落ちそうになっていました。
それでもザンクトパウリ・サポーターは宮市を糾弾したりしません。むしろ、「次こそ! 次こそ!」とばかりに、彼がボールを持つとドッと沸くんです。このカタルシスは癖になりそう。
サッカー選手の喜びは新緑のピッチで躍動することでしか得られない。何度も負傷して苦悩し続けた彼を知る者としては、彼がただピッチに立ってくれているだけでも胸が熱くなります。
前半をスコアレスで終えて折り返すと、56分についにその時が訪れます。敵陣深い位置でボールを奪った味方MFから右サイドに張る宮市にパスが出ると、ワンタッチで対面の相手を追い抜きマイナス方向へクロス。最後はハイタワーFWフェールマンが体に似合わぬ器用な反転からシュートを突き刺し先制点を奪取!
アシストした宮市が拳を握りながら絶叫。そこにフェールマンが駆け寄ってチーム全員の輪ができた瞬間、僕の頬には、はらはらと涙が伝っていました。涙の理由なんて無粋なので記しません。
取材数回なのに覚えてくれていた。
このミラントーアで、宮市亮が躍動する姿を観られる幸せを、噛みしめるように、慈しむように、僕はしばらくの間、記者席で静かに感慨に耽っていました。ああ、良かった。本当に嬉しい。
試合は終了間際にシュツットガルトのFWマリオ・ゴメスが同点ゴールを決めて、残念ながらドローに終わりました。試合後のミックスゾーンで宮市を待っていると、彼は僕の姿を見つけて柔和に微笑み、「お久しぶりです」と言ってくれました。
まだ3回しか取材したことがないのに、前回僕がここに来てから3カ月以上が経過しているのに、彼は僕のことをしっかりと覚えていてくれたのです。