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宮市亮、ザンクトパウリで完全復活。
「ケガする前より速くなっている」
posted2020/02/08 09:00
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph by
Getty Images
ハンブルク中央駅へ降り立つと、上空には分厚い雲が垂れ込め、道路は冷たい雨で濡れていました。
宿泊していたホテルに大きな荷物を預けると、年配のフロント係が「何処か、街中でも散策するの?」と聞いてきたので、「サッカーの試合を観てくる」と答えると、彼はニヤリと笑って「そりゃあ、いいな。俺はそっちのサポーターだから、俺も観たいよ」と返してきました。
ハンブルク市内で「そっち」と言えばハンブルガーSV、もしくは、ザンクトパウリのどちらかのこと。この日は午後の1時からブンデスリーガ2部のザンクトパウリvs.シュツットガルトが予定されていましたから、このおじさんはザンクトパウリのサポーターなのでした。
中央駅から地下鉄Uバーンの3番線に乗ってザンクトパウリ駅まで。ドイツのファン・サポーターは車内にもお構いなしにビール瓶を持ち込み、試合前から気勢を上げますが、ハンブルクの地下鉄構内のホームの壁にはアルコール持ち込み禁止のマークが掲げられています。
でも、ここの市民の熱狂的な振る舞いを知る者としては、この規制も致し方ないのかもしれません。
シンボルはドクロでもリベラル。
ザンクトパウリのシンボルマークはドクロで、海賊の旗を掲げるサポーターたちがスタンドで波打つ様は威容さを醸していて壮観です。ホームスタジアムのミラントーア・シュタディオンはドイツ屈指の歓楽街とも言われる「レーパーバーン」の至近に建っていることも相まって、その雰囲気はどこかアナーキーな印象も受けます。
でも、実はザンクトパウリのクラブ、そしてサポーターは無秩序な振る舞いとは無縁で、むしろリベラルでコスモポリタンな思想を抱く方が多いと聞きます。
1990年代にドイツ国内で移民や難民を排斥するような動きが起こったとき、ザンクトパウリはクラブ全体でレイシズムに対する抗議を行って外国人排斥やナショナリズム、ファシズムを標榜する右翼組織と向き合ったこともあるのは有名な話です。
そして、そんなクラブに2015年6月から足掛け6年にわたって在籍している日本人選手がいます。皆さんご存知、日本が誇るスピードスター、宮市亮です。