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ナダルとの因縁、森林火災に寄付、
コービー愛。憎めぬ反逆児キリオス。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2020/01/29 20:00
コービー・ブライアントのレイカーズ時代のユニフォームで登場したキリオス。こんなことができる男が単なる問題児であるわけがない。
キリオスもナダルも個性を見せつけた。
今回の「ラファは好きか」の質問には、極力抑えて答えた。
「彼のことはよく知らない。いっしょに出掛けたこととかないしね。心底嫌ってるわけじゃないよ。彼は史上最高のテニスプレーヤーのひとりだと思う。尊敬する気持ちはあるよ。だからといって、人として好きである必要はないだろ。コートに出たら、2人のプレースタイルや個性の違いを見せるだけさ」
そして宣言通り、注目の一戦で個性をフルに見せつけた。
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絶妙なタッチのドロップショットの多用、セカンドサーブでもファーストサーブと同じリスクを負う一か八かの“ダブルファースト”、意表をつくアンダーサーブなど、人を食ったようなプレーはエスカレートし、スタンドを沸かせる。
セットダウンからセットオールに持ち込み、第3、第4セットのタイブレークはどちらに転んでもおかしくなかったが、キリオスの敵対心が生むスーパープレーを、ナダルの守備力と攻撃力が超越した。
「今日のような態度でプレーするなら」
使用済みのタオルが散乱したキリオスのベンチに対し、ウォーターボトルのロゴの向きまでもきっちり揃えて置くナダルのベンチは隅々まで整然としていたのが印象的だ。3時間38分の激戦を制したナダルは、オンコートインタビューでやはりこう言った。
「ニックが今日のような態度でプレーするなら、もっといい選手になるし、テニス界ももっと良くなる」
ラケットは1本へし折ったが、それくらいは些細なこと。ファンや関係者の多くがキリオスのことを憎めないのは、その類い稀な才能に加え、不良の顔の裏にある純粋さを知るからだ。
テニスプレーヤーになっていなかったらNBAプレーヤーになりたかったというほどのバスケ好きの彼は、この日、8番のついたレイカーズのユニフォームを着てコート入りし、下を向いて目頭を押さえながら涙をこらえて歩いた。