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ナダルとの因縁、森林火災に寄付、
コービー愛。憎めぬ反逆児キリオス。
posted2020/01/29 20:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
最近のテニス界には悪役の存在がなくなった。正確に言えば、めちゃくちゃに強い悪役がいなくなった。
ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルの2強時代が始まった頃から、美しいライバル物語に私たちは長く酔いしれているが、ノバク・ジョコビッチをあの程度の毒気で<ヒール>扱いしたり、ロシアの癇癪玉ダニール・メドベージェフの躍進に刺激を覚えたりするのは、人々がどこかでそういう存在を求めているからなのかもしれない。
そんな時代だからだろうか、ことさらに<確執>が取り沙汰されるのが、現王者のナダルとテニス界一の問題児と言われるニック・キリオスである。
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その2人が全豪オープン4回戦で対戦した。キリオスにとってはホームとなるセンターコートの1万5000席は埋まり、記者席も試合開始前に空席がなくなった。
33歳と24歳、世代の異なる2人の因縁は2014年のウィンブルドンでの初対戦に始まる。当時世界ランク144位だった無名の19歳が、聖地にとても似つかわしくない剃り込み頭にヘッドフォンをつけた姿で勝ち進み、当時も世界1位だったナダルを4回戦で破る大番狂わせを演じた。
以来、これまで7度の対戦はナダルが4勝3敗と勝ち越しているとはいえ大接戦も多く、まだ一度もトップ10入りしたことのない選手でナダルがこれほど苦手としている相手は他に見当たらない。
2019年2月に起きた舌戦から不仲に。
しかし高尚なライバル関係には発展せず、逆に不仲を決定的にしたのが昨年2月のアカプルコといわれる。2回戦で対戦して勝ったキリオスは最終的に優勝するが、ナダルは敗戦後、スペイン語による記者会見でこう語ったという。
「ニックはすばらしい才能の持ち主で、グランドスラム優勝も夢ではないし、世界1位も狙える。ただ彼には他の選手や観客や全ての人々に対する敬意がない」
それを聞かされたキリオスは「オレの何を知ってるっていうんだよ。向こうだってポイント間にやたらと時間をとって卑怯じゃないか」と反撃。確かにナダルはサーブ前の時間が長く、キリオスはこれまで何度も「警告を受ける頻度が低い」と非難してきた。