マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
山下公園で高校野球の監督が驚く話。
太極拳には投球と打撃の真髄がある?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/12/30 08:00
野球に集中するあまり、他の要素が目に入らなくなる。それは結果的に、野球にとってもマイナスになるはずだ。
ピッチャーに教えたい要素が全部入り。
そして、そこから緩やかな動きが再開した瞬間に、今度は声が出てしまったという。
「右ヒザに体重を乗せながら、右腕がゆっくりと円を描いて……」
監督さん、実際に立ち上がって、その場で“太極拳”をやり始めた。
「ここの、この動きよ、この動き」
右ヒザに体重を乗せる感じを、動作で何度もなぞっている。
「1、2の~、3ってやつ。イチ、ニィ~ノ~サン」
軸足にジワ~ッとタメてから踏み込んでいく。その動きが投手たちになかなか伝わらなくて、実はとても悩んでいたという。
「これだ! と思ったね。決して急ぎすぎない動き、滑らかな連動、上(上半身)と下の無理のないバランス……ピッチャーに教えたい要素が、全部含まれてるんだから驚いた」
見ていたらバッティングの姿勢に。
もっと見ていたら、今度は両足で立ったという。
「太極拳ってのは、あれだね。ヒザにいつも、いい感じのゆとりがあるんだね」
下半身をそういう形にしておいて、今度は両腕のヒジを張って、まず右ヒザにスゥーッと体重を乗せる。顔は左足の方向に向けたので、
「なんだよ、今度はバッティングのトップの姿勢じゃないか」
そう思ったという。
次に、左ヒザに体重を乗せ変えながら、顔を逆の方向、右足の方向に向けるから、今度は、左打者のトップの姿勢だ。
「からかわれてるのかと思った。でも、向こうはこっちの“正体”知ってるわけないし、なんだか、とんでもないもんに出会ったような気がしてるんだ」