マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
山下公園で高校野球の監督が驚く話。
太極拳には投球と打撃の真髄がある?
posted2019/12/30 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
シーズンオフは、「学び」の時間だと考えている。
野球人に限らない。いろいろな業界、職種の人たちとの集まりは、まさに「学習」の宝庫だ。
かかる時間とお金とエネルギーは、たしかに結構なものだが、その場に散らばっている教訓や真相やヒントには、それに代えられないほどの貴さが感じられるから、やはり出掛けて行くことになる。
横浜での夜の集まりで、ついつい遅くなったある先生が、千葉の家に帰れなくなってホテルに泊まった翌朝、天気もいいしせっかくの横浜だからと、早朝の山下公園に散歩に出掛けたそうだ。
現職の公立高校野球の監督さんだ。
怪しい黒装束のおじいさん。
横浜の港が一望で、小さな「航空母艦」のように見える大桟橋には、「飛鳥」という豪華客船が停泊していて、ジョギングの人、ウォーキングの人、それぞれが朝の海に面した公園を楽しんでいる。
と、ちょっと向こうに、パントマイムのような動きの、怪しい黒装束が見えて、近寄ってみたら、太極拳に取り組むおじいさんの姿だったという。
ちょっと向こうが有名な「中華街」だから、中国の人もこのへんには大勢暮らしている。
「なんとなく見るともなく見ていたら、アレッと思った。緩やかな動きがスッと止まって、そのストップモーションが何かの形に似てるんだね。なんだろう……と思って、よーく見たら、ピッチャーの“トップ”の姿勢なのよ」
左ヒザを腰より高く上げて、右ヒザに程よくゆとりを作り、右ヒジが肩の高さで、右手を上げて、指先は天を指した姿勢で、しばらく静止する。
「その姿勢で、左手の位置がいいんだ。右投手なら、グラブの位置だ。左腕が90度の角度を作って、全身のバランスがとれる位置で止めている。ピッチングフォームはグラブサイドの腕でとるんだ。アッと思ったね」