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零細球団削減と草の根の損壊。
マイナーリーグ再編問題を考える。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2019/12/07 11:30

零細球団削減と草の根の損壊。マイナーリーグ再編問題を考える。<Number Web> photograph by Getty Images

野球殿堂の記念試合も行われるクーパーズタウンのダブルデイフィールド。こういった雰囲気のスタジアムがなくなっていくのか。

ナショナル・パスタイムという言葉の意味。

 歴史をさかのぼれば、1920年代にはベーブ・ルースがこの球場でエキシビションゲームに出た記録がある。ヤンキース傘下に入ったあとは、ドン・マッティングリーやバーニー・ウィリアムズといった名選手が、ここから巣立っていった。

 あの町にはもはやマイナーリーグの球団がないのだ、という事実を知ったときは、つっかい棒を外されたような気分になった。

 こういう球場で、勝敗や順位を気にすることなく野球を見ていると、ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)という言葉の意味がよくわかるからだ。球場に坐っているだけで、時間の経過と空間の微妙な変化のなかに身を置く楽しみを、はっきりと実感することができる。

 古くさい意見に聞こえるかもしれないが、こういう球場を人々の日常生活から奪ってしまうことは野蛮だと思う。

 今回の削減対象には、モンタナ州のミズーラ・オスプレイとか、ウェストヴァージニア州のプリンストン・レイズ(ともにルーキーリーグ・プラスに所属)とかいった小さな町の球団が含まれる。

 ニューヨーク州のビンガムトン・ランブルポニーズ(イースタンリーグAA)やスタッテンアイランド・ヤンキース(ニューヨーク・ペンリーグAマイナス)といった、交通の比較的便利な土地の球団も候補に挙げられている。

マイナーリーグ削減に反対の一票を投じたい。

 もちろん、MLBは古い球場を取り壊せと主張しているわけではない。ただ、小さな町に住む人々の生活に密着した零細球団を削減することは、どうしても草の根的な暮らしの損壊に結びつくような気がしてならない。

 大リーガーの最低保証年俸が56万3500ドルであるのに対して、マイナーリーガーには年俸7500ドル以下の選手が数多くいる。練習や移動などを労働時間に含めれば、これは連邦政府が定めた最低時給(7.25ドル=約790円)にも満たない額だ。

 MLB機構が反トラスト法適用を免除されていることが原因だが、システムを改善するとすれば、こちらが先ではないだろうか。

 政治や経済など複雑な問題が絡み合っているのは承知の上で、私はマイナーリーグ削減に反対の一票を投じたい。ロードサイド・ベースボール(道端の野球)は、アメリカの善ではなかったか。
 

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ロブ・マンフレッド

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