One story of the fieldBACK NUMBER
清原和博はなぜ号泣したのか。
離れたはずの家族、友人との絆。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2019/12/02 20:00
清原和博は視線と声援をその身に受けてこそ活力をみなぎらせる人間である。
観客を笑わせる、清原節の復活。
翌朝、清原はまだ東の空に日がのぼるかのぼらないかの、午前6時に起きた。
車で八王子へ。
待っていたのは現役の文部科学大臣と、かつての仲間たちと、そしてファンと野球だった。
「レジェンド・ベースボール・フェス」
到着するやユニホームをまとい、テレビ番組の対談収録をこなすと、バットを持ってグラウンドへ向かう。
「まだ道半ばですけど、必ず約束を守ってくれると信じています」
萩生田大臣のエールで幕を開けたイベントのなか、グラウンドに設けられたステージではPL学園の後輩・野村弘樹とトークを繰り広げた。
野村 初めて清原さんと対戦したのは、浜スタでのオールスターだったと思うんです。
清原 そうだったかあ。
野村 2回の表、先頭打者で清原さんが打席に立たれて、僕は思い切ってフルカウントからインコースの真っすぐを投げたんです。手応え十分でストライクだと思ったのに……、なぜかボールと判定されたんです。
司会者が「清原さん、覚えていますか?」
ここで待ってましたとばかりに間をとった清原はにやりと笑ってオチをつけた。
清原 いえ、まったく覚えてません。
スタンドを埋めた人たちからいっせいに笑いが起こった。清原節の復活である。多くの人が認識している、らしさが戻っていく。
「大丈夫やから、気持ちを強く持って」
なかでも、もっとも清原らしさがあったのは、身の丈半分くらいの子どもたちにバッティングを教えているときではなかっただろうか。
「バットと一緒に顔までボールに近づいていかないように、距離を取りながらこうやってバットを出していく。足は投手のモーションに合わせて上げて、親指から踏み出していく」
基本を何度も繰り返す。並んだ子供たちひとりひとりにボールを差し出し、打たせてみる。その列の中に、どうしてもバットを途中で止めてしまう子がいた。
「大丈夫やから、気持ちを強く持って、思い切って振ってみろ! もう1回!」
何度めだったろうか。少年はなんとかバットを振り切った。ハイタッチした清原がなぜか本人よりもうれしそうに見えた。