One story of the fieldBACK NUMBER
清原和博はなぜ号泣したのか。
離れたはずの家族、友人との絆。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2019/12/02 20:00
清原和博は視線と声援をその身に受けてこそ活力をみなぎらせる人間である。
この日は清原にとってのトライアウトだった。
ただ、そんな中でこの日もっとも“トライアウト”という呼び名にふさわしかった人物がいた。
清原である。
神宮のスタンドにいたのはほとんどが40代~50代、いわゆるKK世代の人たちだった。
肌寒いバックネット裏に肩を寄せ合って座っていた中年3人組がどこかはしゃいでいた。
「みんな息子が野球をやっていて、来年高校3年生ということもありますし、やっぱり、清原くんがくるってことで……、みんなで行ってみようぜとなったんです」
おそらく、ほとんどの人が清原を見にきていたのだろう。今の清原を。
長い一日を終え、疲れているはずが……。
終了後、このイベントを主催した会社の代表が語った言葉が腑に落ちた。
「我々が次のチャンスをめざす人を支援する事業をやろうと思ったとき、今、球界でもっともそれを望んでいる人は誰だろうと考えたら、真っ先に浮かんだのが清原さんでした。だからこれを機に清原さんには次のステージに進んでいただきたい。このトライアウトに何年もいるようなことは望んでいません」
つまり野球界に再び戻りたいと願うかつてのスターはこの日“トライアウト”を受けて、そして少なくとも、神宮にやってきた人たちからは受け入れられた。
さいごに清原は報道陣と向き合った。
「僕は事件を起こしてグラウンドに帰ってきたんですけど、そこで声援をいただいて現役時代の横断幕が見えたりして、嬉しかったです。まだ薬物の治療もありますし、執行猶予もあけてませんし、一歩一歩なんですけど、野球というものを大切にしてやっていきたいです」
長い一日を終えたばかりのはずなのに、その顔が妙に艶々と光り、言葉は冴え冴えとしていた。