One story of the fieldBACK NUMBER
清原和博はなぜ号泣したのか。
離れたはずの家族、友人との絆。
posted2019/12/02 20:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
暦を師走へとまたいだ肌寒い週末、清原和博は2日間で、16時間も稼働した。
ユニホームに袖を通し、バットを手にして、ファンの前に立って挨拶し、メディアに向けてコメントし、自分を支援してくれる、もしくは見守ってくれる人たちに帽子をとって丸刈り頭を下げた。
2016年2月、覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕された直後から清原を心身両面でサポートしてきた紳士はかつてのスターが人々の前に戻ってくる様子を見つめながら、表情を曇らせた。
「いきなりこうなると、擦り切れちゃうんじゃないかって、また元に戻っちゃうんじゃないかって、不安になるよねえ」
関係者によれば、医師からは「急激に仕事を入れないでください」と言われているという。そうした身からすれば、明らかにドクター・ストップのレベルだったかもしれない。
清原に降り注ぐファンの声援。
11月30日。冷え込んだ土曜日の朝、清原は8時30分過ぎには都心の真ん中、神宮球場の正面に着いた。
この日は「ワールドトライアウト2019」の監督を務めることになっていた。すでにその時間から集まっていたファンが黒いダウンコートの清原に声をかける。
キヨー! キヨ、おかえりー!
かつてナイター前の西武球場や、東京ドームで繰り広げられていた光景がよみがえる。
午前9時、一塁側のダッグアウト裏でユニホームに着替え、「監督」としてベンチへ。ネクストチャンスを求めてやってきた所属のない選手たち全員と握手を交わす。そこから2試合、計6時間、投手なら15球ごと、打者なら数打席ごとにベンチを出て、審判に選手交代を告げるという役割を続けた。
「トライアウト」と銘打たれてはいるが、あくまで一企業のイベントである。日米スカウトがやってくるという触れ込みだったが、スタジアムにやってきたスカウトは米大リーグ関係者5人、日本プロ野球からはゼロ(いずれも主催者発表)だったことを考えてもNPBへの強制力はもちろんない。例えば、MVPに選ばれた元巨人の高木勇人がプロ野球界に返り咲く保証はないのだ。
観衆の入りから考えても、まだまだ発展途上の催しであるという印象は拭えなかった。