胸に響く「功労者」という評価。

　あれから3カ月、田中は契約更改をし、育成選手としてチームに残ることになった。与えられた背番号は「046」だ。

「クビになってもおかしくないと思っていたし、本当にありがたいことですよね。まずはしっかりと復帰することがチームへの恩返しだと思っています」

　契約更改の席で三原一晃代表から次のような言葉をかけられたという。

「今後も長く野球をつづけられるように焦らずにしっかりと治して欲しい。球団としては（田中を）功労者と考えているから」

　功労者、という言葉が田中の胸に深く響く。思い返せば2014年のオフ、中継ぎとして頭角を現し始めた田中は先発での準備もしておくように首脳陣から言われたが、これを固辞し中継ぎで生きていくことを決めた。このこだわりと覚悟こそが、功労者たる田中のその後を決定したといってもいい。

「今考えると、当時よくあんなことが言えたなって」

　田中は笑いながらあのときを振り返る。

「中継ぎでちょっといいピッチングをしたぐらいで、中畑（清）監督の言うことに従わなかったんですからね。偉そうとしか言いようがないし、今考えると恐ろしいですよ」

経験や知見は球団の財産となる。

　笑いが収まると、田中はふと考えを巡らせるような表情を浮かべた。左肘の内側には浅黒く変色した15㎝ほどの手術痕が覗いていた。

「あとこれは球団から言われたわけではないのですが、今後もし同じような手術をする選手が現れたとき、前例ではないですけど僕がどんな経緯で手術をし、リハビリをし、いかに復帰したかというのを伝える役目も担っているのかなって思っているんです。僕はこれまで肘を痛めたことがないし、リスクは誰にでもあるんだって。チームにとっても、実際に手術のことを理解している人間がいるのといないのではかなり違うと思いますからね」

　知る者にしか伝えられないことがある。田中がここまで経験し、またこれから得るだろう知見や情報は、今後、球団の財産になるはずだ。

「僕からすれば、自分の状況をもっと把握して焦ることなく手術に踏み切っていれば、もっと早く復帰の見通しが立つはずでしたから、そこは後悔しているんですよ」

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