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第4GKから7年目のルヴァンMVP。
新井章太と川崎が描いたストーリー。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/10/29 18:00
3失点しながらPK戦での活躍でMVP獲得。新井章太の“逆転人生”からすれば、それも彼らしいと言えるのかもしれない。
「つまらない試合はしたくなかった」
福森晃斗を中心に札幌の選手たちがベンチも一体となった祝福の輪を作っている間、彼は持ち場を飛び出して、気落ちするチームメートたちのもとに駆け寄っていた。そして心が折れそうになっている味方を叱咤している。そうすることで、勝利への執念を繋ぎとめようとしたのである。
「落ち込むじゃないですか、10人だし。そこで、ここからどうするってなった時に、気持ちを強く保たないと、最後までズルズル行くから。あのまま4点目を取られてとか、そんなつまらない試合はしたくなかった。だから、みんなにはしっかり声をかけました」
失点直後に、GKが自らチーム全体を鼓舞するのは珍しい光景だ。それでも、やらないといけないと思ったという。それが、再開のキックオフを待つ間に、自分がやれる最大限の仕事でもあるからだ。最後まで、絶対に諦めさせなかった。
「本当は、言いたくはないんです。後ろの選手というか、一番後ろで(点を)取られたGKが言うのって難しいので。だけど、そんなこと言ってられない試合だった。まだ延長の後半もあるし、その先もあると思っていた。気持ちのところだけは常に高く持ってました」
車屋にも「大丈夫、オレが止める」。
こうした声がどこまで届いたのかは、誰にもわからない。
ただ延長戦の前に新井が背中を叩く「闘魂注入の儀式」を受けた小林悠が、劇的な同点弾を記録。PKを失敗した車屋紳太郎には「大丈夫だ。オレが止めるから」と声をかけて、見事に連続ストップしてみせた。そうやって、ついには聖杯をも引き寄せたのである。
「4回負けてたとはいえ、今回のメンバーは全然違う。タイトルを2つ獲っていることも自信になっていた。オレらも獲れるんだ、という自信もあったので、そこは最後まで諦めないでいこうという感じだった」
矢沢永吉の名曲をチャントに持つ新井章太が、令和のJリーグ史に刻んだ「成り上がり」のストーリー。
ただ、それはここで終わりではない。その物語は、まだまだ上書きされていく。