プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「出し切って動けなくなる覚悟で」
菅野智之はグッドルーザーだった。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2019/10/24 12:00
腰の故障を抱えながら、マウンドに上がった菅野。6回3分の1を投げて6安打8奪三振、自責点3と先発の責任を果たした。
マウンドのプレートを踏む位置が違っていた。
ケガの影響を思わせないいつもの菅野がそこには確かにいたが、普段と同じではないことはマウンドの立ち位置ではっきりと分かった。
マウンドのプレートを踏む位置が違っていた。
通常は左打者の内角に角度をつけるためにプレートの三塁側の端に右足の爪先を合わせて投げてきた。しかし5月に腰の故障を発症してから、試行錯誤の末に患部への負担を軽減するためにプレートの真ん中を踏んで投げるように変えたことがある。その方が腰を切る角度が緩やかになり、故障箇所への負担が軽くなるという配慮だった。だが、思い通りのボールが投げられないために、痛みが消えると再び三塁側に戻して投げてきた。
ところがこの日のマウンドでは、再びプレートの真ん中を踏んで投げるスタイルに変わっていた。それぐらいに腰の状態は良くはないということだった。
昨季3000球以上投げたツケ。
昨年は自己最多の27試合に先発して15勝をマーク。202イニングを投げて10完投、8完封はいずれも自己最多で年間の総投球数は3129球にも上っていた。球数がシーズン3000球を超えた投手は、NPBでは他には楽天の則本昂大投手だけで、その則本は今季、肘の故障で手術を受けている。
菅野自身も2年目に肘の靭帯に損傷が見つかり、それ以来、肩や肘の故障にはかなりの神経を使ってケアをしてきていた。しかも昨年の投球数が投球数だけに、今年はより慎重に肩と肘のケアには意識を向けてやってきたつもりだった。
ところが思わぬところに昨年の酷使のツケが回ってきた。
「僕自身の中では腰の故障というのは、想定外のケガだったんです」
菅野がこう語っていたのは7月のことだった。そしてそこから苦闘が始まる。