プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「出し切って動けなくなる覚悟で」
菅野智之はグッドルーザーだった。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2019/10/24 12:00
腰の故障を抱えながら、マウンドに上がった菅野。6回3分の1を投げて6安打8奪三振、自責点3と先発の責任を果たした。
動けなくなるくらいの覚悟で。
合わせて3度の登録抹消を経験し、9月15日の阪神戦で登板して4回6安打4失点で降板後の翌16日に一軍登録を抹消された直後には、今季の登板はすべて回避してシャットダウンすることを決した時期もあったという。
それでも菅野にもう1度、マウンドに上がる気持ちを湧き上がらせたのが、エースとしての意地とプライドと責任感だった。
そこからクライマックスシリーズへの登板を計画したが、調整が進まずに断念。そして最後のチャンスとして日本シリーズでのマウンドを目標に調整し、ギリギリで間に合わせた。それでも万全の体調ではなかったことは、このプレートの踏み位置が物語っていた。
「出し切って、投げたら動けなくなるくらいの覚悟で投げます」
強い覚悟で上がったマウンドでは、菅野らしさを存分に見せつけた。
「来年は今まで以上の成績を」
140km後半のストレートにツーシーム、130km台のスライダーにカッター、フォークと120km台のカーブと多彩な球種をコーナーに投げ分けて3回まで1安打。4回にグラシアルの一発は浴びたが、その後は5、6回と再び三者凡退でソフトバンク打線を退けた。
7回は1死から味方の2つのエラーと内野安打2本という不運でマウンドを中川皓太投手に譲ったが、27人の打者への全108球の投球内容は、逆境の中でまさにエースと呼ぶにふさわしいものだった。
「ここまで来れたというのは僕だけの力じゃない。色んな人に感謝の気持ちを伝えたいです」
試合後の菅野はこう語ると、だが悔恨もにじませた。
「今年のシーズンは自分の中では今日に限らず悔しいことばかりだった。来年は今まで以上の成績を残せるように頑張ります」