プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「出し切って動けなくなる覚悟で」
菅野智之はグッドルーザーだった。
posted2019/10/24 12:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Nanae Suzuki
意地とプライドと責任感。
東京ドームのグラウンドで繰り広げられるソフトバンク・工藤公康監督の胴上げを、この男はどんな気持ちで見つめていたのだろうか。
菅野智之。
腰の故障でマウンドに立つことすら難しいと思われていたこの右腕は、王手をかけられた日本シリーズ第4戦に先発し、そして敗れ去った。
それでもソフトバンク打線を相手に6回3分の1を投げて6安打8奪三振で、自責点は4回にジュリスベル・グラシアル外野手に浴びた3ランの3点だけ。失投と言える失投はその1球だけで、間違いなくエースの意地とプライド、そして責任感を全うしたマウンドを見せての敗北だった。
まさに菅野はグッドルーザーとして2019年のシーズンを終えたのである。
「思ったより投げられたと思う」
「何とかしたい一心で投げました」
3連敗と追い詰められた中での日本シリーズ登板は、9月15日の東京ドームでの阪神戦以来、38日ぶりのマウンドだった。
ソフトバンクの1番・牧原大成内野手への第1球は147kmのツーシーム。これが外角低めに決まり、山本貴則球審の「ストライク!」のコールが響いてゲームは始まった。
「思ったより投げられたと思う」
本人がそう語るようにボールには力もあり、切れもあった。
初回はこの牧原を一ゴロ、2番の今宮健太内野手には1ボール2ストライクから外角低め一杯に134kmのスライダーが決まって見逃しの三振を奪った。そして3番の柳田悠岐外野手をフルカウントからインサイドのスライダーで見逃し三振に仕留めると、右手の拳を握ってガッツポーズを見せた。