ラグビーPRESSBACK NUMBER
稲垣啓太、ドラマを超えた初トライ。
仲間が繋いだ3連続オフロードパス。
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/14 13:00
勝利、8強進出を手繰り寄せるトライを奪った(左から)福岡堅樹、松島幸太朗、そして稲垣啓太。死闘のスコットランド戦でも「ONE TEAM」を体現した。
松島の剛脚から始まったアタック。
計画通りポゼッションを高め、優勢ムードで迎えた前半25分。スコアは7-7の同点だった。
相手陣内で波状攻撃を仕掛ける日本。突如としてウイングの松島幸太朗の剛脚が閃き、防御網を貫通し、相手ゴールへ向かって大きく前進する。
松島は背後から襲いかかった相手ウイングに肩口から地面へ落とされるが、よろめきながら懸命に立ち上がる。ここで倒れていたらプレーが中断した可能性もあった。大歓声のなか、日本のアタックは続いた。
トライ後、笑顔はなかったが仲間は。
攻撃回数が伸び、会場からは日本コールが起きる。バスケットボール経験のあるフッカーの堀江翔太が、相手のタックルを華麗なスピンでいなした。しかしタックルを浴び、堀江は不屈のハードワーカー、ジェームス・ムーアへボールを託した。
ここで1本目のオフロードパス。
しかし直後にロックのムーアも左脇にタックルを食らう。左側でサポートに走ったのはフルバックのウィリアム・トゥポウ。
2本目のオフロードパスで、楕円球を先へと運んだ。
トライまでディフェンダーはあと1人。欧州最高のフルバックの1人であるスチュアート・ホッグが右から迫る。ここでトゥポウは広角にステップで振り切り、目前のインゴールへ。しかしカバーに入ったセンターのクリス・ハリスに捕らえられた。首を左に振る。そこに稲垣が待っていた。
3本目のオフロードパス。
捨て身の3連続オフロードパスで繋がれた楕円球、勝利への渇望は、最後の最後に代表戦でノートライの男に託された。これまで泥臭いプレーに徹し、華々しいトライの土台になってきた。トップリーグでも通算2トライだから、魅せるトライはできなかった。
スコットランドのタックルを下半身に浴びながら、稲垣は楕円球を両手に持って確実に押さえた。最高の舞台で巡ってきた役割を確実にこなした。
「代表に入って7年間で初めてトライしましたけど、慣れてないので両手でいきました」
勝ち越しトライを決めた稲垣へ、6万7666人の大歓声が降り注ぐ。トライを決めた稲垣に笑顔はなかったが、駆け寄る仲間たちは満面の笑みだった。
まるで、誰もが稲垣のトライを待っていたかのように。