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楽天の打撃職人・銀次、好調の秘訣。
バットは不変、フォームは変幻自在。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKyodo News
posted2019/08/27 08:00
8月23日の西武戦では通算1000試合出場を達成した銀次。生え抜き10年目の頼れる主将だ。
長さ33.5インチ、880gのバット。
今年、銀次はバットを変えることをやめた。
長さ33.5インチ、880グラムのバットは2011年からモデルを変えていない。ただし、厳密にはシーズンの疲労が蓄積され、体力の消耗が激しい夏場には重量を軽くしたバットを使用していた年もあった。
それすらも、銀次はやめたのである。
「もう変えません。確信しました」
確信の理由はこうだ。
「触った感覚が一番いいんすよ、それが。やっぱりね、体に馴染むし、体がスイングとかの動きを覚えているから」
銀次の感覚とは、好調の記憶だけではない。パフォーマンスが低調な時期をその身に刻んでいるからこそ、自らの感覚を客観的に捉えられる。バットに関して言えば、それだけ銀次には一家言があるということだ。
「そんな簡単に変えていいのかな」
「なんかね、『そんな簡単にバットを変えていいのかな?』って思っちゃう。変えた直後って『これ、いいかもしれない』って感じるもんなんですよ。でも、『戻しておけばよかった』って時が絶対にくるんです。だったらね、変えないほうがいいなって」
どんなものであれ形が変われば、その新鮮さから好循環に向かうのだと、それこそ確信に近い錯覚に陥るものだ。その歯車がひとたび狂うと、また新たな要素を導入しようと試行錯誤を繰り返す。そして、いつしか本当にいい時の自分や形を見失う。そういったアスリートは、実際のところ少なくないはずだ。
銀次はパフォーマンスの安定のため、バットのサイズを固定する決断を下した。
変えないことで安定を図ったのであれば、変えることでパフォーマンスの向上を促進させてもいる。