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巻誠一郎は経営者で、監督修行中。
引退後のアスリートに何ができるか?
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2019/08/24 11:50
引退後、精力的に全国各地を飛び回る巻誠一郎。現役時代と同じく、エネルギッシュに人生を過ごしている。
取締役という「なんでも屋さん」。
「引退発表してからほぼ毎日、熊本はもちろん全国各地を飛び回って、ほとんど休みがない(笑)。でもサッカースクール、エキシビションマッチ、試合の解説など、サッカーにまつわる仕事はごくわずかです。現状、仕事の9割から9割5分はサッカーとは直接関係ない仕事なんです」
巻さんは熊本市内で、障害を持つ子どもたちの放課後デイサービス施設4店舗「果実の木」を運営する株式会社きららの取締役を務め、障害者の就労支援に携わり、熊本の農業と福祉とを結びつける事業も手掛けている。
そのほかにも、血液中のタンパク質の画像分析によって怪我や病気の早期発見をめざす東京工業大学とのベンチャー企業にも参加している。
「ほかにもいろいろな案件に関わっていて、なんでも屋さんなんですよ」と笑う。
選手として尖ることと、社会性。
サッカー選手の現役時代は短い。引退後の将来を見据えて、現役時代から起業やビジネスを考える選手も近年は少なくない。巻さん自身もそのひとりだった。今に繋がる事業もあるが、失敗もあったという。
「今振り返って思うのは、若い頃はサッカーだけに向き合い、集中するべきだということです。神経をすり減らすとはいえ、選手として尖っていないとたどり着けない世界もあると思うので。でも、ビジネスをやろうとすれば社会性が求められるし、多くの人と関わり、相手の立場に立つ必要もある。そうすると当然、尖ってばかりはいられない。自然と柔らかくなるし、そうならなければ、ビジネスはうまくいかないんです。
ある程度プロサッカー選手としてのキャリアを積んで、切り替えやバランスをうまく保てるようになれば、サッカーとそれ以外のビジネスも両立できるのかもしれません。ただ、若いうちはなかなか難しいと思うんです」
巻さんもある時期まで、尖った選手としてサッカーと向き合い続けた。そのスタンスがあったからこそ、16年間に及ぶプロキャリアを重ねてこられたのだろう。