フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
光源氏役で氷上でのラブシーンも。
表現者・高橋大輔が見せた新領域。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/08/11 11:40
初日公演後「残りの公演も精一杯魅力を伝え、この勢いを持ってシーズンを迎えられたら」と今後についてコメントした高橋。
哀愁ただよう歌声で観客の涙を誘う。
孤独な運命をのろい、愛した女性たちを偲ぶ、長い、長い独唱。生歌が初めてとは思えない哀愁ただよう歌声で、観客の涙を誘った。
その歌声に続いて、悲しみを爆発させるスケートの舞。運命にあらがうかのように、激しく、それでいて美しさのある滑りを見せた。このまま今季のプログラムにしたいような、そんな孤高の美を醸し出す滑りだった。
これで高橋の出番は終わりかと思いきや、最後のとどめはワイヤーアクション。亡き源氏を想う藤壺のもとに、幻影となって月から現れる。藤壺の背中を抱き、ふたたび、月の光のなかへと飛んでいく。言葉も大きな動きもない『幻影』としての演技だが、指先の角度や、目の表情だけで、藤壺への想いを見事に醸し出した。
まさに歌って踊って跳んでの3拍子。スケーター高橋ではなく、身体表現者として新たな領域に踏み込んだことは間違いない。
荒川静香が演じた「狂気」
高橋は初演後、「台本をもらった時は棒読み状態。歌も収録予定だったのが、生歌に変更になり、正直恥ずかしかったですが、この作品のため『やるっきゃない』と腹をくくりました。魅せ方は、役者の方々から学ぶものが多くあり、今後に活きてくると思います」と語り、手応えを感じている様子だった。
また各配役が、それぞれの新境地を見せたことが、舞台の力になった。
荒川静香は、朱雀の母である弘徽殿の役。第一皇子である息子を帝にしようと、第二皇子である源氏を強く憎んでいる設定だ。「本番でも、役を演じながら自分の解釈がどんどん形を変えていくのではないか」と話していたが、まさにその通り。息子を愛するがあまり、弘徽殿の狂気はエスカレートしていき、源氏の暗殺計画を何度もくわだて、最後には自らが短剣を抜いて源氏を刺そうとする。