フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
光源氏役で氷上でのラブシーンも。
表現者・高橋大輔が見せた新領域。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/08/11 11:40
初日公演後「残りの公演も精一杯魅力を伝え、この勢いを持ってシーズンを迎えられたら」と今後についてコメントした高橋。
人生初となるラブシーン。
若君のころに異母兄弟の朱雀(ステファン・ランビエル)とともに狩りに行くシーンでは、本当に少年のような表情を見せる。2人が競いあいながらイーグルやバレエジャンプを交互に繰り出す様子は、20代でジャンプ競争をしていた頃を彷彿とさせた。
そして人生初となる平原綾香とのラブシーン。「私を救えるのはあなたしか居ない!」と言って平原演じる藤壺の寝所に押し入り、抱きしめる。すがるような眼差しで、少年が年上の女性に恋をする切ない気持ちを表現する。ここでは俳優としての演技力を披露した。
次のラブシーンは紫の上(ユリア・リプニツカヤ)との氷上でのダンス。2人は近づいたり、離れたり、氷の上でたわむれながら滑る。Y字スパイラルで滑るリプニツカヤをやさしくリードし、抱きしめてキス。自らが育てた可愛い紫の上を守ろうという、男らしさを醸し出す滑りだった。
続いては、紫の上を追ってきた帝の兵との殺陣。氷上ではなく船の上ということもあり、スケート靴を履いたままでは動きにくいはずだが、日本刀をふりまわし軽快に格闘シーンを演じ切る。ここではまさに武者といった、力強い源氏の姿を演じた。
「私が愛した者は皆、去っていく」
さらに明石に流れ着いた源氏は、海賊とともに都を目指す。弘徽殿の言いなりになって悪政を敷く朱雀帝の目を覚まさせよう、そして紫の上を取り戻そう――。そんな使命を胸に立ち上がるシーンは、海賊の松浦(柚希礼音)と共に熱唱し、ミュージカル歌手としても一流といえる才気を見せた。
クライマックスは、さらに多彩な才能を見せる。自分をかばって毒杯を飲んだ紫の上が息絶えると、その苦しさを歌声に託す。
「私が愛した者は皆、去っていく。幸せになることなく去って行く。誰ひとり幸せにすることが出来ないのか、この私は。なぜ私は生まれて、なぜこの世に生きているのか。月よ教えてくれ、これが私の定めなのか」