甲子園の風BACK NUMBER
智弁和歌山主将・黒川史陽の葛藤。
激怒、トンネル、5度目の甲子園。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2019/08/03 08:00
3年連続24度目の夏の甲子園出場を決めた智弁和歌山高校。主将の黒川史陽(左から2番目)ら3人は5季連続出場となる。
些細なことから始まった言い合い。
黒川が一番変わってほしいと思っていたのが、エースの池田陽佑だった。智弁和歌山は昨秋の近畿大会準決勝で明石商にコールド負けした。池田陽にも、投手陣をまとめるエースとして危機感を持ってほしいと思っていた。しかし「火がついていなかった」ように黒川には見えた。
ある日、黒川のいらだちが爆発した。きっかけは些細なこと。投手陣の役割だったボールの管理が甘く感じられたため、黒川は池田に、「ボールの責任者誰やねん!」と怒りをぶつけた。
一方の池田も、言われっぱなしでうっぷんがたまっていた。
「あの頃は投手陣と野手陣があまり噛み合っていなくて、ピッチャーが思ってることと野手が思ってることが違っていた。でもピッチャーとしては、ずっと不甲斐ない結果だったんで、野手に言いたくても言えない部分がありました」
そのうっぷんが爆発し、池田も野手に対する不満を黒川にぶつけ、言い合いになった。
その中で黒川は、「エースのお前がしっかりしなかったら、日本一なんか絶対無理や。上のやつが甘い行動をとってたら、下のピッチャーも絶対成長してこない」と思いをぶつけた。
「あいつが一番、日本一になりたいと思ってる」
結局、その場は中谷監督が収めたが、その日の夜、池田は黒川の下宿の部屋にやってきて、「お前の言う通りやった」と言った。池田はこう回想する。
「あいつが真剣やからこそ言ってくれているというのが、僕はその時、やっとわかったんです。最初はあいつだけが怒ってて、『なんでこいつ、こんなに怒ってんねやろ?』とずっと思ってました。自分があいまいだったからわからなかったんですけど、あのケンカをきっかけにわかりだした。
あいつが一番、日本一になりたいと思ってる。僕も『日本一になるためには、そこは怒るよな』と理解できるようになってきました。それで、自分が変わらなあかん、と思ったんです」