甲子園切符にも「まだ49番目なんで」。

　黒川自身、「自分が先頭で打てたら、チームは100％（勢いに）乗るって知ってるんで」と言ったように、1点以上の大きな価値がある黒川の先頭打者本塁打はチームに勇気を与えた。打線は次々に得点を重ね12－1で勝利し、5季連続となる甲子園切符をつかんだ。

　最後のライトフライを徳丸天晴（1年）がつかんだ瞬間、選手たちはマウンドに駆け寄り一瞬で歓喜の輪ができたが、そこに主将の姿はなかった。

　黒川はセカンドの守備位置で徳丸からボールを受け取ると、ゆっくりと歩いて、一番最後に輪に加わり、「まだこれからやぞ」とひと言発した。重圧を背負いこんでいた黒川が一番安堵したはずだが、その時、笑顔はなかった。

「まだ49番目なんで。まだ日本一になってないんで。ここで喜んでたら日本一になれないと思ったんで。みんな嬉しいと思うんですけど、そこで自分がやるべきことは、空気を変えるというか、日本一をチーム全員に目指させることだと思ったので」

　すでに最後の大目標しか眼中になかった。

　黒川の父・洋行さんは、上宮高時代に主将として日本一を経験した。黒川は、子供の頃に父に買ってもらった木のバットを今も抱えて寝ているという。

　野球への、日本一への一途な想いが、この夏、どのような形で結実するのか、目が離せない。