「まさかのトンネル」をエースが救う。

　初戦の和歌山南陵戦は、思いの強さが硬さとなった。1回表の守りで、平凡なゴロを二塁手の黒川がまさかのトンネル。いきなり重い空気が漂った。

「ガチガチでした」と黒川。

　東妻も「あいつが一番緊張してたんじゃないですか。表情が硬かったし、アップの時も変にテンションが高かった」と振り返る。

　中谷監督は「初回に黒川の見事なトンネルがあって……、彼はチームの精神的な柱なので、少し『やばいんちゃうか？』となったと思う」と試合後、苦笑した。

　嫌な空気を払拭したのはエースだった。

「あのぐらい大丈夫です。想定内です」

　そうどっしりと構えた池田は、連続三振を奪ってピンチの芽をさっと摘み取った。

　4回裏には東妻の2点適時打で先制し、緊張感漂う初戦を突破した。

決勝、本領を発揮する1番・黒川。

　センバツでは3番を打っていた黒川は、夏は1番を任された。その狙いを中谷監督はこう明かす。

「一番いいバッターに、一番数多く打席が回る。黒川自身にとっても、責任感がものすごく強い子なので、3、4、5番だと自分がランナーを返さなきゃと大振りになってしまいがちだけど、1番だとアウトにならないような確率の高い打ち方で、逆にホームランが増えたり、いい効果が出ている」

　和歌山大会前半は、なかなか納得のいく打撃ができなかったが、黒川は「打つ以外にもやれることはある。キャプテンとして、チームを底から上げていきたい」と前を向き続けた。

　決勝戦の相手、那賀の高津亮監督は試合前、キーマンに黒川と、自チームの主将で1番打者の雑賀崇斗を挙げていた。

「雑賀には、『黒川の本気とお前の本気、どっちが勝ってるんや』と言いました。1打席目の黒川と、1打席目の雑賀で、流れが決まると思います」

　その決勝で、黒川は本領を発揮した。1回表の第1打席で、那賀の好投手・谷脇弘起の5球目のストレートを鋭く振り抜き、弾丸ライナーでライトスタンドへ運んだ。

　ものすごい勢いでベンチ前を通過する打球を目にした選手たちは沸き立ち、中谷監督が
「まだやぞ！」「次の1点やぞ！」と鎮めなければならないほどだった。

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