プレミアリーグの時間BACK NUMBER
守銭奴オーナーがベニテスを放出。
2年目の武藤嘉紀がリベンジ開始。
posted2019/07/09 11:40
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Uniphoto Press
「どうしたらあんな結論になるのか教えてくれ!」
犬の散歩友達であるクリスが言った。ラファエル・ベニテスの中国・大連一方監督就任が伝えられた、7月2日の夕方だった。彼は西ロンドンに住むジョーディー(ニューカッスル出身者)だ。故郷にある心のクラブから中国へ去った指揮官の心ではなく、実力も実績もあるスペイン人監督をみすみす手放したイギリス人クラブ経営者の思考回路が、理解できずにいたのだった。
ベニテスとの契約満了は、就任発表の2日前。だが、ニューカッスルは、さらにその1週間前の時点で「契約延長に合意してもらえる見込みがない」との理由から退任決定を報告していた。2007年からクラブを所有するオーナー、マイク・アシュリーの一声による前倒し発表だったと言われる。
散歩友達の質問に対する筆者の答えは「マネー」の一言。アシュリーを一般企業の経営者と考えれば、帳簿上の数字にこだわる堅実路線も間違ってはない。しかし、経営対象がフットボール・クラブとなると、得意先に当たるファンはピッチ上に「ロマン」を求める。
ニューカッスルはブライトンではない。
もちろん、採算を度外視した出費は規則としても許されない状況になってはいるが、クラブにはリーグ順位やタイトル獲得の可能性を上げるべく、許容範囲内でのリスクテイクも期待される。
昨季を降格圏一歩手前の17位で終えたブライトンのように、クラブ史上2度目のトップリーグ参戦中のようなクラブであれば、2年連続でのプレミアリーグ残留だけでも充分ロマンと言えるかもしれない。
しかしニューカッスルは、同じく2年連続で残留に成功したとはいえ、昨季の13位で満足してはいけない古豪である。21世紀に入って2度の2部降格を経験してはいるものの、歴史的には1部の常連であり、20世紀にはリーグとFAカップで計10冠を果たしている。5万2000人収容のセント・ジェイムズ・パークは、対戦相手にかかわらず埋め尽くされる。その観客動員力は、現在でも強豪クラブに引けを取らないレベルだ。