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<JTサンダーズを支える未来の力>
「新世代躍動」 武智洸史×金子聖輝
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byMakoto Hada
posted2019/07/11 11:00
写真右から武智洸史、金子聖輝。
日本を代表する大型セッターに。
金子聖輝
高卒4年目のシーズン。21歳の金子聖輝は「相変わらず最年少です」と笑う。
東福岡高時代はエースとして活躍。1年の春高では武智や石川を擁した星城高に準決勝で敗れたが、2、3年は連覇を達成した。
たいていの場合はそのまま大学へ進み、4年を経て、Vリーグに進む。だが金子が選択したのは、その「たいてい」でも、「一般的には」でもない。
アタッカーとしてのキャリアを捨て、高校卒業後はセッターに転向。大学進学ではなく、JTサンダーズに入部した。
実は小学生の頃からセッター経験があり、エースとして活躍した高校時代もU-19ではセッターとして選出されていた。
将来を見据え、大学進学と共にセッター転向を果たす選手は、金子に限ったことではない。だが、大学ではなくVリーグを選択する。しかもセッターとしてほぼゼロから築くキャリアを、トップカテゴリーであるVリーグでスタートさせるのは稀だ。
理由は明確だ。
「東京五輪です。それは今も変わりません。1年後なのに何を言っているんだ、と思われるかもしれませんが、僕は少しでも可能性を上げるためにこの選択をしたので。そこはまだ、諦めずに、しがみつきたいです」
「そういう人間力が必要だと」
当初描いた未来予想図は、もっと出場経験を重ね、セッターとしてのスキルを磨く。そのはずだったが、現実はなかなか厳しい。入部以来の3シーズン、金子の出場機会はほとんどない。高さを活かしたブロックや、アウトサイドヒッターとしても磨いたレシーブ力、サーブ力も自分の武器。そう思ってはいても、レギュラーセッターの深津旭弘を押しのけるほどの力はない。
「(前監督の)ヴコヴィッチにも『素晴らしいセッターとは、人をまとめられる、人を動かすことができる人間なんだ』と言われて、確かにそうだな、と。そういう人間力が必要だとよくわかっているんですけど、実際コートに立つと、僕はまだ『どうしよう』という思いが強い。周りを動かすどころか、周りから心配されている段階なので、まだまだです」
5月に大阪で開催された黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会では、全試合でスタメン出場した。ようやく巡って来たチャンス。手応えも得られたが、それ以上に、試合に出れば課題が次々浮かび上がる。
「途中出場の時は、試合の流れがもう決まった状態じゃないですか。だから、ある意味、自分がやりたいようにできるんです。でもスタートから出るとなれば、0から25点までをどう組み立てるか。相手との相性やサーブレシーブが返るかで路線変更も必要です。セッターである以上、引退するまでずっと、考え続けなきゃいけない。あの場に立ってそれが改めてわかったし、だからこそ、もっと経験したいです」
「JTで核となる選手になりたい」
人懐っこく、喋りたがり。構えずコミュニケーションが取れるその性格も金子の才能だが、それが甘い、と高校時代の恩師や、U-19日本代表監督からは未だに、会うたび「説教がある」と呼び出され、必要な技術や人間力に至るまで、話は尽きない。
今はさまざまな発想を学び、得られるものはすべて吸収したい。ただ、あえて挙げるなら、困ることが一つだけ。
「お前は細すぎる、とめちゃくちゃ食わされるんです(笑)。肉とサラダをひたすら食べさせられて、お腹がはちきれそうなのに、『飯、食うじゃろ』って(笑)。でも、ありがたいですよね。いろんな人が気にかけて、面倒を見てくれるので、いい加減その期待にも応えたい。この先につなげていくためにも、JTで核となる選手になりたいです」
成長のために得られるものはすべて得る。知識も、栄養も。今は、蓄えの時だ。