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主将が、闘将が、見たCLの悪夢。
ミランが打ち砕かれたトルコの夜。
posted2019/05/29 17:30
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
LFC Foundation/Liverpool FC via Getty Images
忘れたくても忘れられない。どう考えても理屈に合わない。
2005年5月25日、リバプールとACミランが激突した'04-05年シーズンのチャンピオンズリーグ決勝戦は、大会史上最もドラマチックなゲームのひとつとして知られている。
イスタンブールのアタテュルク・スタジアムで行われた試合は、前半で3点をリードしたミランにリバプールが後半で追いつき、延長戦とPK戦の末に勝つ、という歴史的大逆転劇だった。
奇跡は敗者にとっての悪夢だ。
当時の指揮官アンチェロッティは「理解不能。まるでSFの世界の出来事だった」と断じた。試合のビデオは絶対に見ない、とも誓った。
だが、悪夢から1年が過ぎようとする頃、アンチェロッティは考えを改め、勇気を振り絞ってようやくビデオデッキの再生ボタンを押した。あの不可解なファイナルを冷静に振り返らねばならない。
あの夜、リバプールが見せた神がかり的な強さとは何だったのか。
前半3-0でお祭り騒ぎのロッカールーム。
世界的トッププレーヤーをズラリと揃えた当時のミランは、アンチェロッティの下で黄金期を迎えていた。決勝のメンバー表を見れば今でも身震いせずにはいられない。
特に国際舞台での強さは抜きん出ていた。その2年前にもユベントスを下してCLを制していた彼らは、リバプールとの決勝でも通算7度目の欧州制覇へ王手をかけた。
ただの大量リードではなかった。
開始1分で主将マルディーニがボレーシュートで奪った先制弾は、あらゆる楽観的予想を超えた景気づけの1発だった。その後、勢いづいたミランはほぼ一方的に攻め立て、FWクレスポが2つの追加点を奪った。FWシェフチェンコとMFカカーとのコンビプレーは流れるように鮮やかだった。
前半終了の笛が鳴った時点で、地上最強チームの称号は確かにミランのものだった。
ここからひっくり返されるはずがない。
ハーフタイムの間、ミランのロッカールームではお祭り騒ぎが始まった。
「優勝は決まったも同然だったから」
DFカフーは10年以上が過ぎた後、愚かな馬鹿騒ぎを認めた。
ミランのロッカールームの騒ぎ声は、リバプール側にも届いていた。