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元監督が明かす歓喜の裏側。
卓球女子団体、ロンドン五輪の秘策。 

text by

松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2019/04/26 17:00

元監督が明かす歓喜の裏側。卓球女子団体、ロンドン五輪の秘策。<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

2012年、ロンドン五輪で卓球界初のメダルを獲得。福原らは歓喜の涙を流した。

「愛ちゃん」を背負った村上。

 閉会式直後の祝勝会。ロンドン市内の中華料理店では、誰もが喜びを爆発させた。普段はお酒を全く飲めないのに、小さなコップ1杯のビールを飲み干した福原は、そのまま眠りこけてしまった。

「愛と初めて海外遠征に行ったのが、12歳のころ。当時は『泣き虫・愛ちゃん』と呼ばれて、周りの大人が全部をやってあげる状況だった。デンマークに2人で行ったときなんか、左足用のシューズだけを2足持って来ちゃって、慌てて現地のスポーツ用品店に買いに行ったりね。そんな愛が20歳を過ぎて、いろんな挫折も経験して、心の格闘もあって、変わっていったよね」

 祝勝会が終わっても、福原は起きない。とはいえ、選手村には選手と監督しか入れない。渋々、福原を背負って歩く村上。その姿をすかさずイジる平野と石川。ロンドンの夜に、軽やかな笑い声が響いた。

伊藤美誠は意志が強い。

 村上恭和の携帯電話には、1枚の写真が大切に保存されている。2016年夏、リオデジャネイロにて。柔らかな表情で、村上が3個の銅メダルを首からぶら下げている。その横で笑う福原と石川。4年前、平野が立っていた位置には、伊藤美誠がいる。

「美誠が小学校を卒業したころ、'20年の五輪には行けるだろうと予想していました。リオに間に合うとは思っていなかった。ところが急激に力をつけて、代表入りを果たした。彼女は、強い。15歳のころの愛と比べても明らかに大人だし、頭の回転が速くて、とにかく意志が強い。平野とはまた違った強さを持っていますね」

 リオで日本は準決勝ドイツ戦に敗れ、目標の金メダルに届かなかった。それでもシンガポールとの3位決定戦で意地を見せた。

「15歳の美誠が代表に滑り込んで、結果、メダルを獲った。あの姿を見て、美誠と同世代の選手や後輩たちは、自分も五輪でメダルを獲れると、本気で思ったはず。実際に今、平野美宇や早田ひなが頑張っているし、絶対に代表になれると思っている。彼女たちがこのまま成長すれば、必ず日本は東京五輪でメダルを獲れると思います」

 リオ五輪を最後に、村上は女子日本代表監督を退いた。それでも「日本一球拾いをする監督」は、今も変わらず選手たちを温かく見守っている。

(Number977号『[元監督が明かす歓喜の裏側]卓球女子団体、ロンドンの秘策。』より)

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