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元監督が明かす歓喜の裏側。
卓球女子団体、ロンドン五輪の秘策。
posted2019/04/26 17:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
夢を実現させる努力を惜しまなかった彼女たちは、
日本卓球界初の五輪メダル獲得の快挙を成し遂げた。
ロンドン五輪、リオ五輪を率いた村上がその道のりを語った。
Number977号(4月25日発売)の特集を全文掲載します!
村上恭和の自宅には、1枚の写真が飾られている。2012年夏、ロンドンにて。柔らかな表情で、村上が銀色に光る3個のメダルを首からぶら下げている。その横では、平野早矢香、福原愛、石川佳純がにっこり。五輪のメダルは選手に与えられる。ならば「監督のために」と、福原が提案して撮られたものだ。
日本卓球界初の五輪メダル獲得へ。このミッション達成への第一歩も、福原からの写真の提案だった。3位決定戦で韓国に敗れた北京五輪後、村上が女子日本代表監督に就任した。4年後に向けた、東京・味の素ナショナルトレーニングセンターでの初ミーティング。突然、福原が手を挙げた。
「ここに、銅メダルを決めて喜ぶ韓国選手の写真を飾っていただけませんか?」
当時の心境を、村上はこう振り返る。
「メダルを獲りたいんだという意思、本気を感じました。あの敗戦の悔しさを忘れないための、良いアイディアだなと思った」
すぐに、ポスター大に引き伸ばされた写真が練習場の壁に貼られた。北京五輪3位決定戦直後、韓国チームの選手たちが、嬉し涙を流しながら肩を寄せ合っている。
村上がつくった「4T12」
数カ月後、この横に12枚の外国人選手の写真が追加されることになる。
4T12。
これはロンドン五輪へ向けて、村上が作った標語である。メダルを獲得するためには、最強・中国と決勝まで当たらない第2シードになるのが、最も近道。そのためには、ワールドツアーでライバル4チーム(中国、韓国、シンガポール、香港)の団体戦レギュラー計12人に勝って、世界ランキングのポイントを稼がなければならない。特に、平野と福原が苦手としている韓国のカットマン、キム・キョンアとパク・ミヨンへの対策は、最重要課題だった。