欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
不屈の“聖イケル”カシージャス。
急性心筋梗塞も乗り越えられるか。
posted2019/05/02 17:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
今シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝第1レグ、リバプール対ポルト戦のハーフタイム明けのことだ。“コップ”と呼ばれるアンフィールドのゴール裏スタンドから、定位置に向かうポルトの守護神イケル・カシージャスに温かい拍手が降り注いだ。
およそ1年前にも、これとまったく同じようなシーンを見た記憶があった。けれど、当時と今回とではその意味合いが少しばかり違っていたように思う。
どちらの拍手にもCL最多出場記録を誇る「21世紀最高のGK」に対するリスペクトがあったとはいえ、1年前のそれには多分に「憐れみ」の感情が含まれていたからだ。
昨シーズンのCL、決勝トーナメント1回戦でリバプールと対戦したポルトは、ホームの第1レグで0-5の大敗を喫する。この日、ゴールマウスを託されたのはポルトガル代表のジョゼ・サ(現オリンピアコス)。背番号1を着けたカシージャスは、リバプールが誇る強力3トップが次々とネットを揺らしていく様子を、ベンチで歯噛みをしながら見つめていた。
好調カシージャスが味わった不遇。
カシージャス自身の調子が悪かったわけではない。むしろフィジカルコンディションは近年でもベストと言える状態にあった。しかし、財政難からこの高給取りをリストラしようと画策するクラブ上層部の思惑もあって、出場機会が意図的に制限されていたのだ(一定の出場試合数をクリアすれば自動的に契約が更新される条項があった)。
国内リーグ戦は9節から12試合連続で控えに回り、CLではグループステージの3節以降、一度も出番が与えられなかった。まだ第一線で十分に戦えるとの確信があったカシージャスは当時、すでにシーズン終了後のポルト退団を心に決めていたとも言われる。
リバプールのサポーターも、そうした背景を知っていた。もしかすると、CLの舞台でカシージャスの勇姿を見るのはこれが最後になるかもしれない。だからこそ彼らは、第2レグで久々にスタメン出場を飾ったカシージャスに──もちろん第1レグで大勝した余裕もあっただろうが──、黄昏時の大ベテランを労うような拍手を送ったのだ。