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44歳伊東輝悦と41歳明神智和は
今、J3という戦場でボールを追う。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2019/05/03 09:00
シドニー五輪や日韓W杯など、大きな舞台でも“らしさ”を見せていた明神智和。今も愚直にボールを追い続けていた。
それぞれの環境と考え方。
場所を移動して、名所・千本松原の裏手にある浜辺でテルの写真を撮り、そこでJ3で新たなシーズンに挑む二人のベテランサッカー選手の取材は終わる。
僕は沼津駅から三島に移動し、朝思いついた通り、駅前の鰻屋に入ってしばし考える。うなぎの稚魚の世界的な減少についてではない。明神智和と伊東輝悦についてだ。
一方はプロとは何かという明確なコンセプトを持ち、もう一方は風のように飄々とサッカーを楽しんでいるだけに見える。一方はシーズン終わりの契約更新のたびに若干の不安を覚え、もう一方は淡々と時間を過ごして新シーズンを待つ。努力の人と才能の人。二人に共通するのはボランチというポジションくらいだろうか。
後出しジャンケンのようになって少し心苦しいが、僕はなんとなくこの二人がそれぞれの世代で最後までサッカーを続ける、そんな予感がしていた。なんでそんな風に感じたんだろうか? 強いて理由を挙げるなら、きっと彼らは誰よりもサッカー以外のものを感じさせなかったのだろう。一度シーズンが始まってしまえば、そこにはもう未来もなく、過去もなく、ただピッチの中央後方にポジションを取り、目の前のサッカーボールと人の動きにしか興味を持たない。二人ともそんな選手だった。
うな重がテーブルに運ばれ、僕は目の前の光景に意識を戻す。そこで、テルのセリフをふと思い出して、一人で笑う。「44歳の選手が試合出続けてたら、それはそれでそのクラブってどうなんだよ」って。
確かにそうだ。彼らはキャリアの最後をJ3で迎えようとしている44歳と41歳の年のいったサッカー選手に過ぎない。でも、と僕は思う。最後にもう一度活躍して、明神ってすげえよな、テルってすげえよな、と言ってみたいな、と。
Number971号(『[現地探訪]伊東輝悦&明神智和「J3という戦場で」』より)
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