酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
あまりに偉大な2004年のイチロー。
262安打の足跡を今一度振り返る。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/04/14 11:30
シーズン262安打を放った2004年のイチロー。「マルチヒット」という言葉が日本に定着したのも、彼がいたからこそだ。
敬遠、極端な前進守備が増える。
しかしこのころから敬遠も多くなる。9月16日のエンゼルス戦では2敬遠、19、20日には2試合連続敬遠。安打記録を目指すイチローには気がかりなことだった。
9月18日、日本プロ野球選手会はついにストを決行。日本でプロ野球が行われなかったこともあり、野球ファンはイチローに集中した。
この年のイチローは、内野安打も57本打っている。イチローが打てば、ぼてぼての当たりも安打になる。内野手が極端な前進守備をとることも多くなった。
21日のエンゼルス戦で3度目の5打数5安打。シーズン通算243安打としキャリアハイに。あと14本。「まあ、よかったです」言葉数は少なかった。
9月末ごろから日本中がそわそわしだした。秋葉原の電気屋街では、テレビ売り場の画面はMLB中継一色になり、黒山の人だかりができた。中学、高校時代の恩師に対する報道陣のマークも始まる。恩師の1人は「打ち合わせなどもできるだけ短くしてテレビを見ている」と語る。シスラーの記録にあと1本と迫って9月を終えた。
そして10月の声を聴いた最初の日に、イチローは3安打して、あっさりジョージ・シスラーの記録を破ったのだ。
新記録後にも安打を重ねたすごさ。
本拠地セーフコ・フィールドでのレンジャーズ戦、1回裏に0-2からきれいに流し打った打球は左前にゴロで抜けた。これでシスラーに並ぶ257安打。そして3回裏、また先頭で打席が回ったイチローは、フルカウントから中前にゴロで抜ける安打を放った。
試合は中断、花火があがりイチローはチームメイトの祝福を受けた。現DeNAのホセ・ロペスや長谷川滋利もいた。打たれた投手は28歳のライアン・ドレスだった。
イチローは一塁側のベンチに歩み寄り、ジョージ・シスラーの娘と握手をした。日本の小さな外野手の姿が、輝かしい「メジャーの歴史」に刻まれた瞬間だ。
イチローがすごいのは、この後も安打を打ち続けたことだろう。6回の第4打席には遊撃内野安打。そして残る2試合でも3安打して最終的に262安打に達したのだ。イチローにとっては「安打をより多く打つこと」が目標で、どんなマイルストーンも通過点だったのだろう。