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あまりに偉大な2004年のイチロー。
262安打の足跡を今一度振り返る。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNaoya Sanuki

posted2019/04/14 11:30

あまりに偉大な2004年のイチロー。262安打の足跡を今一度振り返る。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

シーズン262安打を放った2004年のイチロー。「マルチヒット」という言葉が日本に定着したのも、彼がいたからこそだ。

40試合連続出塁に5打数5安打も。

 6月に入っても好調を維持したイチローは、6月11日には自己タイの38試合連続出塁。しかし報道陣には「興味ありません。(見ている人が)楽しめるものではない」とつれなかった。この記録は40試合まで伸びた。6月26日には早くもシーズン100安打に到達した。

 7月13日、ミニッツメイドパークで開かれたオールスターゲームには、ア・リーグの1番中堅で先発。1回表、剛腕ロジャー・クレメンスから三塁線を抜く二塁打を放ち、次のイヴァン・ロドリゲスの三塁打で本塁に帰ってきた。

 7月はオールスターがある関係で他の月より試合数が少ないが、このときのイチローには大した問題ではなかった。

 7月29日のエンゼルス戦では、MLBに来て初となる5打数5安打をマーク。報道陣に「絶好調の定義にもよるが、すごくいい状態がどういうものかよくわからない」とお得意のイチロー節で答え、「ボールが止まって見えるのでは」という問いに「止まっていないものが止まって見えるのは明らかに特別でしょう。僕には常に、やたらと動いて見えるよ」と禅問答のように答えている。

 そしてイチローは7月もわずか26試合50安打をクリアした。

日本では球界再編騒動が起きた。

 一方、この年の日本球界はやたら騒がしかった。6月13日にオリックスと近鉄の合併話が持ち上がり、これに古田敦也率いるプロ野球選手会が反発。いわゆる「球界再編騒動」が起こった。7月8日には巨人の渡邉恒雄オーナー(当時)が、「無礼なこと言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が」と発言。これで世論に火がついた。

 私は近鉄の動静に気をもんでいたが、MLBの公式サイトで「今日のイチロー」を確認するのが一服の清涼剤のようになっていた。

 8月3日のオリオールズとのダブルヘッダーでは1試合目で再び5打数5安打、2試合目は途中出場で1安打と、1日6安打の荒稼ぎ。打率.355でついに首位打者争いトップに立った。

 それでも本人は「現段階で1位になったことはそれほど自分には大きなことではない」とクールな反応だったようだ。

 8月5日付の朝日新聞では「安打記録257射程」として、初めて1920年にジョージ・シスラーが記録したMLBシーズン安打記録を破る可能性に言及した。

【次ページ】 アテネ五輪の最中も打ちまくる。

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