甲子園の風BACK NUMBER
奥川恭伸、キミは何に負けたのか?
応援、サイン盗み……論点多き試合。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKyodo News
posted2019/03/29 14:30
今大会No.1ピッチャーと称されていた星稜・奥川恭伸(左端)。習志野に敗れた直後、チームメイトたちと引き揚げるシーン。
平常心ではいられなかった理由とは?
実はその直前、三失で勝ち越しを許したところで、奥川は山瀬を呼んで話している。山瀬に聞くと「サインの確認」ということだったが、林の発言と合わせて考えると、この時、投手からサインを出すことに切り替えようとしていたのだと思われる。その1球目からサインミスが起こり、パスボールにつながったのだ。
奥川は試合を振り返る中で、こうも言った。
「いつもどおり平常心でいけたかって言われたらそうじゃない。今回、こうやってたくさんいい経験をさせてもらってるので、また夏に戻ってきて、次は冷静に最後まで戦えるようにしたい」
本当にサイン盗みがあったのかどうかはわからないが……その疑心によって星稜から平常心が失われていったことは間違いないだろう。かなりデリケートな精神状態になっていたはずだ。
どうしても聞けなかった、この質問。
この試合に関して起きた一連の出来事には、さまざまなことを考えさせられる。
サイン盗みという、これまでも陰に陽に指摘されてきた問題がどこに帰着するのか。
そして、近隣住民からクレームが入ったというほどの応援の音量についても。
もちろん味方を勇気づけ、元気を与えるために楽器を鳴らし、声を出すことは何ら咎められるべきものではない。ただ、相手チームの連携を(結果的に)妨げることが応援の本当の目的にかなっているのだろうか、とも思ってしまう。意見は分かれるところだろうが、そういったことに関しても今回の試合を機に目を向けてもいいのかもしれない。
試合後、奥川に聞けずじまいだった質問がある。負けた投手に聞くのは酷なような気がして、最後まで切り出せなかった。
「今日は何に負けたと思いますか?」
習志野の打者に?
走者の疑わしき行為に?
ブラスバンドの応援に?
それとも自分の弱さに?
彼は何と答えただろうか。