“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
1年に守護神を奪われた3年がJ内定。
流通経済大柏GKのドラマ性が凄い。
posted2019/01/09 11:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
第97回全国高校サッカー選手権大会はベスト4が出そろい、1月12日の準決勝を控える中、ある選手のJリーグ内定が発表された。
今季J2に昇格したFC琉球に流通経済大柏のGK猪瀬康介が加わるのだ。
前年度の選手権準優勝校でもある流通経済大柏は、今大会も順当に勝ち上がり、2年連続のベスト4進出を決めた。しかし大会記録を見ても、流通経済大柏のゴールマウスに立っているのは1年生の松原颯汰で、猪瀬はベンチ。つまり、1年生に正GKの座を奪われた3年生GKがプロ内定を果たしたのだ。
当然この内定を勝ち取るまでの道のりは平坦ではなかった。それは彼の立場を考えれば容易に想像できるだろう。
GKのポジションはたった1つしかない。一度その座についたら、めったなことがない限り、その序列が入れ替わりづらい。
例えば、試合中にGKが交代するのは、負傷か退場の2つ以外はほとんどないと言っても良いだろう。もしGKが毎試合変わるようなチームがあったとしたら、それは安定感のなさにつながりかねない。
鹿島から流経柏へと入学して。
全ポジションでGKは一番、レギュラーと控えの線引きがはっきりとしている。さらに第2GK、第3GKという明確なヒエラルキーが生まれる。
猪瀬は中学だけでなく高校でも、このヒエラルキーの厳しさを味わった。鹿島アントラーズつくばジュニアユースでプレーしていたもののユースに昇格できず、高校サッカー屈指の強豪の門を叩いた。
「8月にユースに上がれないことを明言されました。そこから『アントラーズユースを倒したい』と強く思うようになった。高校でアントラーズユースと戦うには(高円宮杯)プレミアリーグに所属するチームしかないと思った。そのタイミングで熱心に誘ってくれたのが流通経済大柏で、そこしかないと思いました。選手権で日本一にもなりたかったですし」
周りを見返そうと、名門の門を叩いたが、当然そこにも分厚い選手層があった。
「中学と高校のレベルがこんなにも違うのかと衝撃を受けたし、高校サッカーの厳しさを知った1年だった」
それでもルーキーリーグでは不動の守護神としてプレーし、2年になると、トップチームに入れた。だが、薄井覇斗と鹿野修平(ともに現流通経済大)のハイレベルな争いに割って入れず、第3GKの立場だった。
それでも昨年度の選手権では鹿野の怪我により、第2GKとしてベンチ入りを果たした。薄井の活躍で1試合も出場できなかったが、準優勝メンバーとなり、2018年度は正GK候補だった。