“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
C大阪有望株が小嶺先生の愛弟子に。
鈴木冬一、1度きりの選手権挑戦記。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/01/07 16:30
帝京長岡戦でゴールを決めて喜ぶ鈴木冬一(18番)。湘南ベルマーレでの活躍も期待される。
セレッソは最高の環境だが。
彼にとってプロになることは目標ではなく、あくまで“過程”だった。その過程の先に、さらに成長してステップアップする自分の姿を真剣に思い描いていたからこそ、目の前にセレッソでプロになるまでのレールが見えても、“その先”が見えなかった。
彼の性格は一言で言うと、まっすぐだ。サッカーに対して本気で向き合い、自分自身と向き合って会話できる選手だ。それゆえ「これでいいや」と割り切れない。
着実に経験を積めているが、このまま漠然と同じ環境で過ごしていいのか。この疑問はすべて自分自身に向けられていた。
「セレッソは素晴らしい環境で、ジュニアから含めた8年間の経験は自分にとってすごく大きな財産になりますし、セレッソという素晴らしいクラブで学んだことは自分が今後、サッカー人生を歩むにあたり、かけがえのないものだし、凄く良い仲間とも出会えた。僕の土台すべてを作ってくれたのがセレッソだと思っています。でも、このままで良いとは思えなかった」
セレッソに対する愛着はとても深い。だからこそ、そこに甘えてしまう自分や、その先にある“停滞”から目を背けることが出来なかった。
「自分がこれから成長するためには、もう決断するしかない」
小嶺先生のもとで自らを磨く。
2018年。彼は行動に出た。愛するセレッソを離れ、高校サッカーに進む道を摸索した時、彼の頭の中に浮かび上がったのが長崎総合科学大附属高だった。
「選んだ理由は小嶺(忠敏)先生がいたから。小嶺先生の下でなら自分が求める厳しい環境でサッカーに打ち込めるし、人間性も磨けると思った」
小嶺監督はかつて島原商でインターハイ優勝1回、国見高でインターハイ優勝5回、選手権では戦後最多タイの6回の優勝を成し遂げ、2008年に長崎総合科学大附属の総監督に就任。すぐに全国大会出場を達成し、昨年度は安藤瑞季(現・セレッソ大阪)とJリーガーに送り出した。
教え子には前橋育英・山田耕介監督、小林伸二(現ギラヴァンツ北九州監督)、高木琢也(現大宮アルディージャ監督)を始めとした指導者、大久保嘉人(現ジュビロ磐田)ら多くのJリーガー、日本代表選手がいる。
この名将の下、高校最後の1年を過ごして、新たな発見をしたい――。その気持ちが強く、家族、C大阪の承諾を経て、3月に長崎総合科学大附属高へ電撃移籍した。
「長崎に行った当初は、いろんな人に自分から話しかけに行きました。自分は明るいキャラなので、それを活かして、どれだけ積極的に自分で入り込んで行って、みんなに認めてもらえるか。プレー面でも練習から貪欲に取り組む姿勢を見せることで、より認めてもらえると思いました」