相撲春秋BACK NUMBER
2年ぶりの関取復帰――。
豊ノ島の妻と娘が支えた土俵際。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/11/10 09:00
大けがを乗り越え関取に復帰した豊ノ島と、リハビリを支えた妻の沙帆さん、娘の希歩ちゃん。
「土俵で闘っている姿がまだ見たいの」
実はこの場所、師匠である時津風親方に「辞めるという選択肢も出るかもしれない」と報告していたという。
師匠の答えは、「自分で決めていい」の一言だった。(当時)4歳の愛娘の言葉に、「もうちょっと頑張ろうか。まだあきらめるのは早い」と思い直すも、3勝4敗と負け越して涙をのむ。そんな夫に沙帆夫人は涙ながらに訴えた。
「結婚した時点で、いつか引退する日が来るのは覚悟して付いてきたつもりだから。私が意見することじゃないけど、豊ノ島として土俵で闘っている姿がまだ見たいの。
次の場所が7月場所で、ケガしてちょうど1年になる。場所前にケガして土俵に上がれてないから、名古屋の土俵に上がって、そこで結果が出なかったら、そこで辞めようよ。だからもう一場所だけでも頑張ってほしい――」
「もう神様なんていないやろなって」
そんな妻子の思いを胸に、3場所連続、こつこつと勝ち越しを重ねる。
しかし、今年1月、東幕下5枚目まで盛り返した豊ノ島は、再度の肉離れを起こして負け越してしまう。
「これ、キッツいな。なんでやろって。この時は、もう神様なんていないやろなって。いたとしてもむちゃくちゃ性格悪い神様だな、ってね。
栃ノ心関が初優勝した場所で、彼も幕下まで下がったのに初優勝した。心のなかでは励みにもなっていました。
でも、ここでまた嫁さんと話したんです。『もう上がれないんだよ、俺は……』『いや、原因は2回ともケガなんだから。相撲にならなくて負けてるわけじゃないんだから、頑張ろうよ』って。ケガが治っても負け越したのなら、それはただ力が劣ってるわけだから、そこで引退しようと。
ダラダラと幕下生活が長くなっちゃったんで、負け越したらやめようと決めた。それこそ、引退会見してる夢まで見ていたんですよね」