相撲春秋BACK NUMBER
2年ぶりの関取復帰――。
豊ノ島の妻と娘が支えた土俵際。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/11/10 09:00
大けがを乗り越え関取に復帰した豊ノ島と、リハビリを支えた妻の沙帆さん、娘の希歩ちゃん。
応援されればされるほど、孤独に。
「この時、『行ける、行ける!』『頑張れ、頑張れ!』と周りの応援がすごかった。もちろんうれしかったんですけど、期待が大きすぎるなか、土俵に向かっていく花道で、逆にすごい孤独感を感じたんです。
本当に、応援されればされるほどに、今までにない孤独を感じた。だから場所が終わって、そんな話になった時、『土俵に上がるのは誰かのためじゃない。家族や応援してくれる人がいても、自分自身のためにだけ上がる。いざ、勝負の場に立つのは俺だけなんだ。家族のためとか、そんなあまっちょろい話じゃない』と。そういう考えでずっと来ていた。
でも、今回のケガで、思いが変わりました。
自分ひとりだったら、やっぱりここまで我慢できなかったし、周りの支えはたくさんありましたけど、一番は家族の支えでもあったんです。個人競技でありながらも、自分ひとりじゃなかった。周りのすべてを大事にしたい――そう改めて思わされました」
「トト、お相撲辞めないで!」
ケガで2場所全休し、'16年11月の九州場所で、12年以上守ってきた関取の座から幕下に番付を落とした豊ノ島。以来この2年間、復帰を目指して、毎場所前には家族と離れて熊本に遠征する。3週間の集中トレーニングを重ねて、今までになく自分を追い込んできた。この雌伏の期間、心が折れそうになったことが2度あった。
「幕下に落ちたばかりの頃は、不安というより、『すぐにでも戻れる』と思っていたんですけどね……」
昨年3月には再十両に手が届く東幕下2枚目の地位で、右脚の肉離れを起こし、負け越す。続く5月場所も東幕下19枚目の地位で負け越し、かつての関脇は、さすがに気持ちが切れかかったという。
「この場所で2連敗した日のこと。嫁さんに『こんなに番付が下がっても勝てないのか。もう相撲を辞める』と言ったんです。今思えば、『この地位だったら(相手を)受ける相撲でも勝てる』くらいに思っていたんですよね。
それで3連敗して『もう無理だ』と思いながら家に帰り、娘が察したのかなぁ。いきなり娘が『トト、お相撲辞めないで』と言うんですよ。これ、けして嫁が言わせた訳じゃないんですよね」