相撲春秋BACK NUMBER
2年ぶりの関取復帰――。
豊ノ島の妻と娘が支えた土俵際。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2018/11/10 09:00
大けがを乗り越え関取に復帰した豊ノ島と、リハビリを支えた妻の沙帆さん、娘の希歩ちゃん。
家族がいたから……。
もし、家族を持たない独身者であったなら、もう辞めていたかもしれない――夫であり、父でもある力士は、見えない力でその背中を押され、土俵際でこらえた。
「ひとりもんだと、止めるものがいないから。師匠も『もう充分だよ』という意味で、『自分で決めろ』と言ってくれていたんだと思うんです。そのまま受け止めて、自分で引退を決めちゃっていたかもしれない。でも、娘や嫁さんの言葉が、自分のブレーキになった。
自分のなかでは、『辞めないで』『まだ行けるよ』『まだ大丈夫だよ』との言葉が、きっと欲しかったのかもしれないんです」
先の9月場所。6勝1敗の成績で千秋楽を終えて、再十両復帰を手中にした。深夜に帰宅した夫は、寝入っている娘の寝顔を覗き、寝ぼけまなこの妻をソファの傍らに呼んだ。
「ちょっと、起きて。横に座って」
「……何? お帰りなさい」
右手を差し出して握手し、妻の肩を抱いて言った。
「やっと戻れたわ。2年間ありがとうな」
2年のあいだ、貯金を切り崩しながら無給の幕下生活を支えてきた妻は、この時ばかりはなんの言葉も持たず、ただ涙を流すだけだった。