どちらかが越権行為を犯せば……。

　リールとパリ・サンジェルマン（PSG）の会長を務めたグライユは、両クラブにハリルホジッチを招聘した張本人であった。

　グライユが続ける。

「情熱と知性を併せ持つ持ったもの同士であれば、お互いをよく解りあうのは十分に可能だ。彼らはともに働くことを選んだ。つまり誰からも相手に対する警鐘は受けていないわけだ。お互い行きつくところまで行くしかない。

　どちらも本気で率直であれば、たぶんうまくいくだろう。だが、どちらかが越権行為を犯せば関係は直ちに悪化する。ヴァイッドは自分がロッカールームの鍵（註：選手への指導力の意味）を持つべきだと思っている。その部分で権限を分かち合う気は彼にはないし、極めて当たり前の考え方だ。

　たしかにスタメンに関して議論はできるが、最終的に決めるのは常に監督であるべきだからだ。もしもワルデマール（キタ）がそこで口を挟んだら……。

　私はヴァイッドをよく知っている。彼はスタートからすべてを明確にする。スタメンを選ぶのも、自分以外にはあり得ないと考えている」

「それはヴァイッドだ！」

　実際のところ会長の口出しと監督の権限については、ふたりの間ですでに幾度となく話題になっている。ハリルホジッチによれば、会長が現場に居合わせたときも、すべては明確で何も問題はなかったという。

「彼（キタ会長）とはずいぶん話しあった。彼も私の方がよくサッカーを理解していると分かっている。オーナーの立場から、彼は様々な要求を出すことができる。

　だが、誰に決定権があり誰が選手をプレーさせるのか？

　それはヴァイッドだ！

　たとえ彼が（監督の）ライセンスを持っていたとしてもそこは変わらない。彼には情熱があるしクラブの所有者でもある。知識欲も強い。だから私は彼にこう言った。『会長、もしあなたが監督もやりたいのであればそうしてください』と。しかし彼には『ヴァイッド、この選手とこの選手をスタメンで起用しろ』と言うことはできない。もしヴァイッドを少しでも理解していれば、それは私の権限であり責任であることに気づくはずだ。

　だれもが彼との間に諍いが起こるのを期待している。そうなるかも知れないし、ならないかも知れない」

【次ページ】　ヴァイッドもキタも妥協はない。