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浦和で育ち、湘南で大人になった
岡本拓也の初戴冠と期限付きの終焉。
posted2018/11/05 08:00
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
J.LEAGUE
慣れ親しんだ埼玉スタジアムで、湘南ベルマーレのルヴァンカップ初優勝に大きく貢献し、人目をはばからずに涙をこぼした。浦和レッズから期限付き移籍中の岡本拓也は、試合後の取材エリアでも言葉を詰まらせた。
「僕の人生に関わってくれた人たちの顔が浮かんで……。仲間、チームメイト、指導者の方への感謝の思いがあふれた。まさかベルマーレのユニホームを着て、プロ初タイトルを取るとは想像もしなかった」
当初は契約どおり、1年限りでジュニアユース(中学年代)から育ってきた浦和に戻るつもりだった。2016年、当時23歳の岡本拓也は曹貴裁監督に徹底して鍛えられ、3バックの一角として1シーズンを戦い抜いたが、チームはJ2降格。主力の1人として責任を感じつつも、これまでにない成長を実感することができた。
予想もしなかった指揮官の高い要求に応えるために努力を続けたことで、新たなプレーモデルが見えてきたという。最終ラインから積極的に前へボールを運び、前方にスペースを見つければ、果敢に走り込んで攻撃にも参加。2016年3月5日には、川崎フロンターレ戦で左クロスに右足を出して滑り込み、プロ6年目でJリーグ初ゴールもマークした。
守備的な選手と決めつけず。
今年、26歳になった岡本は、昔の自分をしみじみと振り返る。
「当時、チョウ(曹貴裁監督)さんから“自分がこういうプレーヤーだと決めつけるな”と言われていた。僕は守備的な選手だと決めつけていたから。あのシーズンがプロに入って、一番伸びたと思う。来季がJ2でも関係なかった。ここで練習すれば、もっとうまくなれるって。自分に期待感が持てた」
J1の浦和に戻る道もあったものの、自らレンタル期間の延長を申し出て、2017年も湘南で戦うことを選択。この決断は間違っていなかった。同シーズンの半ばからは右アウトサイドで起用され、プレーの幅をさらに広げる。
ドリブルで縦に仕掛け、右足で鋭いアーリークロスを入れたかと思えば、切り返して左足でセンタリングを送る。クロスに飛び込む姿も迫力満点。サイドから中央へ斜めに走り込み、スルーパスを呼び込む動きまで身につけた。
リーグ戦30試合に出場し、3得点2アシスト。
「チョウさんにも言われていることだけど、現代サッカーでは守備と攻撃の両方できないと、生き残っていけない。変化したのは技術面よりも“仕掛け続けるんだ”という気持ちかな。失敗しても、もう一度チャレンジするぞって。続けることで成長していく」