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アパパネに続き、アーモンドアイで
牝馬3冠達成した国枝調教師の手腕。
posted2018/10/19 16:30
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph by
Satoshi Hiramatsu
異変が起きたのは彼女が改めて女王として君臨した十数分後の事だった。
現場を目撃したカメラマンや記者の多くは「脚元の故障?」「今後は白紙になるのでは?」と眉間に皺を寄せて口にした。
アーモンドアイが史上5頭目の牝馬3冠馬となったのは10月14日。
3冠を懸けた秋華賞の舞台では単勝1.3倍の圧倒的1番人気に推された。そして、実際に人気に応えて優勝するわけだが、実は決して平坦な道を突き進んでの戴冠だったわけではない。
オークスの後、休養した彼女は、秋華賞の前に叩き台としてのプレップレースを使う事はなく、3冠達成という偉業に休み明けで挑むことになった。
「何かアクシデントがあってぶっつけになってしまったわけではありません。当初の予定通り、順調にここ(秋華賞)での戦列復帰なので、何も問題はありません」
レース4日前の追い切りで
指揮官の国枝栄調教師はそう言って順調を強調していた。しかし、そんな言葉に一瞬、いぶかる声が囁かれたのはレースの4日前の10月10日。
この日、美浦トレーニングセンターの南馬場、ウッドチップコースで最終追い切りを予定していたアーモンドアイは、急きょ、坂路で追い切る事に変更された。
国枝師に話を伺うと、「後ろ脚の蹴りが強過ぎて前脚と交錯。俗にいう“追突”というヤツで爪を痛めてしまったため」だと言う。平坦なコースよりも坂路コースの方が同じように蹴っても追突を防げる。そう判断したのだろうが、このニュースが流れた時は、人気馬の不安点を重箱の隅を楊枝でつつくように探っていた穴党ファンは色めき立った事だろう。
しかし、そんな風評を吹き飛ばしたのもまたアーモンドアイ自身だった。
予定を変更して追われた坂路で、彼女が弾き出した時計は49秒7。抜群に速い時計を、鞍上のクリストフ・ルメール騎手の手がほとんど動く事なくマークしたのだ。