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清武弘嗣「正直、引退も考えた」
ケガの連鎖、救った父の言葉と妻。
text by
小田尚史Hisashi Oda
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/09/11 11:00
ロシアW杯出場は逃したとはいえ、清武弘嗣は今もなお日本屈指のMFである。復調を果たせば代表復帰も遠くないはずだ。
復帰と離脱の中でも冗談めかして。
苦難は続いた。先発復帰となった第10節の仙台戦ではいきなり2ゴールを奪って勝利に貢献したが、第12節の名古屋戦、第15節の広島戦と左ふくらはぎの痛みで、いずれも途中交代を強いられた。その後もコンディションが整わず、ロシアW杯のメンバーに選ばれることはなかった。そしてW杯中断明け初戦となった第16節の清水戦で再び左ふくらはぎを負傷。その後のリーグ戦3試合を欠場した。
復帰と離脱を繰り返すこの間、どう清武と向き合うべきか。筆者の中でもどかしい思いがあった。
変に気を遣うことは避けたい。記者はドクターでもなければトレーナーでもない。彼に症状を聞いても、回復に役立つことはできない。そうであれば前向きに、試合の話題を振って、その肉声をサポーターに届けることが使命だと考えた。
いつしか、足の具合を聞くことはやめた。それでもサッカーについて語る清武は、一貫してポジティブだった。どんな時でもチーム全体を気にかけるのも彼らしさだ。チームメートが練習する傍ら、リハビリのためにグラウンドに顔を出す日々にも、深刻な表情を浮かべず、こう冗談めかしていたほどだ。
「暑いっすね。(真っ黒に日焼けして)もう焼くところ、ないけど(笑)」
「正直、引退ということも考えた」
8月に入り、チームはシステムを3-4-2-1に変更し、調子を上げ始めた。そして戦線に戻った清武もポジションを中央に移すと、何度もアシストがついてもおかしくない好パスを届けるなど、復活へのスピードを速めた。
ピッチを縦横無尽に駆け巡った第25節の浦和戦後には、こう手ごたえを語っていた。
「コンディションは徐々に良くなっていますし、パフォーマンスとしても毎試合ムラなくやれているなという感じはします。今はサッカーをしていて楽しいですね」
ピッチでの輝きを取り戻した9月。今なら聞けると思い、こんな質問をぶつけた。
「ケガを繰り返す過程で、気持ちが折れそうになったことはなかったのか」と。
すると彼は、思いがけない言葉を吐露した。
「正直、引退ということも考えましたよ」