サムライブルーの原材料BACK NUMBER
青山敏弘の心からトゲは消えた。
W杯の後悔と、広島での独走と。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2018/08/08 08:00
今年のJリーグ最大のサプライズである広島の独走。その中心で青山敏弘は巨大な存在感を発揮している。
ハメスを止められなかった一瞬の後悔。
コロンビアに借りを返すとき――。
4年前のブラジルワールドカップは、青山の心に大きな傷あとを残した。
1分け1敗で迎えた第3戦のコロンビア戦、これまで出番のなかった彼は負の流れを変えるべく先発に起用された。灼熱のクイアバ。期待に応えるべく、前のめりになる彼がいた。持ち味の縦パスには冷静の要素が欠けていた。
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後半、彼にとって忘れられないシーンが訪れる。
満を持してピッチに入ってきたハメス・ロドリゲスに勝ち越しゴールを許した、あの一瞬のこと。軽やかにゴール前に入ってきたところに青山は構えていた。行くべきか、行かざるべきか。その躊躇を見透かされ、食い止めることはできなかった。間接的な責任ではあったとしても、彼は自分を責めていた。
ワールドカップから4カ月経って、彼に話を聞く機会があった。まだ「あの瞬間」を引きずったままだった。
「今でもあそこはなんで行けなかったのか、なんで下がったのか。もう1個前でボールを獲らなきゃいけなかった。後悔しかない、悔しさしかわかない」
ブラジルから時間が止まっていた。少し間を置いてから、自分に語り掛けるかのように小さく声を発した。
「ワールドカップは悔しい思いしかないです。でも遠藤(保仁)さんだってドイツW杯で出られず、悔しい思いをしている。ワールドカップの悔しさは、そこでしか晴らせない。僕も立ち止まっているわけにはいかないですから」
初のJリーグMVP、そして残留争い。
立ち止まることなく、前へ。
その固い決意を示すように、翌2015年シーズンのサンフレッチェは滅法、勝負強かった。シーズンを通して最多の73得点、最少の30失点と他を圧倒した。年間1位の座を勝ち取り、ガンバ大阪とのチャンピオンシップを制して2年ぶりの優勝を決める。そして青山は、初のJリーグMVPを獲得した。
しかしながら昨年は一転して、残留争いの続く厳しいシーズンとなり、恩師である森保一監督も7月にチームを離れた。それでもしぶとく残留を決めたことも、青山の新たな経験値となった。