サムライブルーの原材料BACK NUMBER
青山敏弘の心からトゲは消えた。
W杯の後悔と、広島での独走と。
posted2018/08/08 08:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
ロシアで見た、柴崎岳のパスにシビれた。
三ツ沢で見た、青山敏弘のパスにシビれた。
ワールドカップとJリーグ、相手も場所も大会の規模も違えど、放たれたパスの光沢に比較はない。あのときに感じたものと似たツヤ、似た色気があった。周りを躍動させる、力があった。
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8月1日、横浜F・マリノス-サンフレッチェ広島戦。
前半途中、ハーフウェーライン付近だった。青山はボランチの相棒である稲垣祥が奪ったボールを受け取って、すぐさま斜め前にまさに「ポーン」と送る。狙いどおりの角度、速度、パスの質。相手GKとDFのちょうど間に落とすいやらしさ満載でクリアさせず、今季のトップスコアラーであるパトリックにシュートを打たせた。ポストに弾かれたとはいえ、脅威と魅了の放物線であった。
ロシアで見た、柴崎岳のディフェンスにシビれた。
三ツ沢で見た、青山敏弘のディフェンスにシビれた。
パスカットあり、タックルあり、スライディングのシュートブロックあり。粘着と気迫の警戒線であった。
唯一のサプライズでメンバー入り。
三ツ沢の夜に、想像する。ロシアワールドカップでもし青山に出場機会があったら、どのようなプレーをしていたのか、を。コロンビア相手に、どんなプレーでリベンジを果たそうとしていたのか、を。
唯一のサプライズだった。
2カ月半前、ロシアに臨む日本代表候補メンバー発表にその名はあった。首位を走るサンフレッチェ広島でその中心にいるとはいえ、3年ぶりの代表復帰を予想した人は皆無に近かったはずである。
中断前のラストゲーム、セレッソ大阪戦を終えて取材エリアにあらわれた青山の周りには人だかりができていた。敗戦に悔しさを浮かべつつ、代表への強い思いを口にした。
「最後がホームだったんで、できれば勝って“行ってきます”と言いたかったんですけど、まあ自分らしくていいんじゃないですか。気を引き締めて代表に行けます。ここまでチームがやってきたことは素晴らしいこと。そこで選ばれたことは誇らしいこと。自信を持って代表に行きたい」